寺本さん(陸前高田市出身)が県知事賞 三陸海域研究論文表彰事業 ヨーロッパヒラガキの移入と定着テーマに 県職員では初めての受賞

▲ 6年度の県三陸海域研究論文知事表彰事業で県知事賞を受ける寺本さん(右端)

 釜石市にある県水産技術センター増養殖部の専門研究員・寺本沙也加さん(30)=陸前高田市気仙町出身=による研究論文「ヨーロッパヒラガキの三陸沿岸海域への移入と定着状況について」が、令和6年度県三陸海域研究論文知事表彰事業で県知事賞を獲得した。県職員が同事業で県知事賞に輝くのは、賞が創設された平成21年度以降で初めて。寺本さんは「岩手の水産業を盛り上げようと行った研究がこのように評価をされ、非常にうれしく思う。ヨーロッパヒラガキの種苗生産、養殖技術開発について、今後も研究を継続していきたい。新たな特産品として岩手から全国に出していければ」と語った。

 

 ヨーロッパヒラガキは昭和27年にオランダから日本に持ち込まれた。三陸沿岸を中心に29カ所で試験養殖が行われたが、一般的なマガキにはない独特の渋みなどが敬遠されて広く出回ることはなく、生産は約20年前に終了。各地に保存されていた母貝も東日本大震災の津波ですべて流失し、国内から消失したとみられていた。
 転機は令和5年4月。山田湾の漁業者が、養殖カキに付着する円形の二枚貝の写真をSNSに投稿。その写真を寺本さんが偶然見つけた。
 寺本さんらはDNA鑑定を行い、その二枚貝がヨーロッパヒラガキであることを確認。また、山田湾だけでなく宮古湾、大槌湾、大船渡湾、越喜来湾、門之浜湾、広田湾でも生息が認められた。論文では、「海外から意図的に持ち込まれたカキ類が天然の海域に定着した国内初の事例である」などとまとめている。
 表彰式は15日に盛岡市の県庁で開かれた。寺本さんも出席し、佐々木淳副知事から賞状と記念品を受け取った。
 「今後も、岩手の水産業を発展させられる研究を続けていきたい」と寺本さん。今後の本県水産業の発展に向け、「漁業者の方とわれわれ研究者が、もっと協力し合っていければ生産振興につながる。危機的な状況ではあるが、希望もたくさんある。希望を見つけるような研究をしたい」と意気込みを語った。
 審査委員長を務めた東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターの青山潤センター長は「将来、水産学や水産業を目指す県内の若い女性のロールモデルになる」と寺本さんに期待を寄せた。
 同事業は、本県三陸沿岸への研究人材の集積や海洋・水産研究の活性化を図ろうと創設。毎年、専門家や有識者による選考委員会を開き、論文と口頭発表で受賞者を決めている。6年度は学生3人、一般3人から応募があった。
 表彰では寺本さんのほか、東京大学大学院農学生命科学研究科の齋藤綾華さん(27)の「アカウミガメが深く潜水するときの心拍数の低下」が学生の部で知事賞を受賞。同大大気海洋研究所のファン・ズハンさん(27)=中国籍=の「大槌湾におけるエゾアワビによる高精度な海洋復元に関する研究」が学生の部で特別賞(今後の研究継続により、さらなる成果が見込まれる研究または独創性が高い内容であるもの)に選ばれた。