インタビュー気仙2025ー⑤一般財団法人みらい創造財団朝日のあたる家事業統括責任者・鈴木 拓さん(41) 産福連携で地域課題解決を
令和7年1月25日付 1面

──朝日のあたる家では、陸前高田市を拠点に、地域産業と福祉のマッチングを図る「産福連携」事業を令和5年から本格化させた。鈴木さんはコーディネートを通じ、労働力不足を課題とする現場と仕事を求める福祉関係者のマッチングを後押ししている。これまでの成果は。
鈴木 産福連携事業はこれまで、農業、椿茶、縫製などの各分野で連携の輪を広げてきた。
実績をみると、令和5年度はコーディネート件数が67件で、受託額は約500万円。6年度は、昨年12月末時点でコーディネート件数が48件で、受託額は700万円超えと、すでに前年度を上回っている。2年間で延べ400人以上の社会参加を支援できた。
特に力を入れてきた農業分野の農福連携をみても、6年度(12月末時点)の受託額は、5年度の約234万円を上回る365万円余り。農福連携を推進する朝日のあたる家と農家とで発足した団体「タカタアグリコンソーシアム」(TAC)がうまく機能し、積極的な情報発信で各方面から好評価をいただきながら、順調に実績を伸ばせている。
昨年春には、木や竹をチップ状に砕く粉砕機を朝日のあたる家で導入し、「竹が伸びて困っている」という市民や農家などから伐採の依頼を受けている。当初の想定以上に需要があり、ここでも福祉との連携が可能と手応えを感じている。
──今年4月には、米崎町の朝日のあたる家付近の空き施設を活用し、新しい福祉事業所を開設する。その意図や事業所の特徴は。
鈴木 法人の方で、就労継続支援B型事業所(仮称・朝日のあたるファーム)を立ち上げようと準備を進めている。ピーマンの選別作業や、大型冷蔵庫を導入しての作物の保管、伐採した木や竹の処理と肥料づくりなど、産福連携の取り組みで得た経験を生かし、地域のニーズに合った業務を請け負う。
例えば、人手のいるピーマンの選別作業は、今まで連携する福祉施設利用者が各圃場を訪れて行っていたが、この方法だと回れない圃場が出てしまう。そこで、朝日のあたるファームが作業場を提供し、複数の農家の作物と、複数の福祉事業所の人を1カ所に集めることで、作業の効率化や仕事の供給の安定化、夏場の作業環境の改善などにつなげる。
大型冷蔵庫は、収穫した作物を保管し、出荷日まで品質を保ちながら中間管理ができる。収穫してすぐに選別、出荷しなければならないというハードな状況を緩和し、農家の徹夜をなくす。まずは米崎りんごでの活用を考えている。
目的は、産福連携により地域産業を支えること。そのための設備に投資をすることで、農家の営農計画拡大や、福祉の仕事創出などにつなげていきたい。
──現在挑戦していることは。
鈴木 コーディネーターの自分と農福連携定着支援員2人の計3人で、農業用の土づくりについてアドバイスできるようになる民間資格の「土壌医」を取ろうと勉強している。取得できれば、肥料づくりに必要な知識を得るだけでなく、農家からの相談を受け付けたり、情報収集のツールにしたりと、活動範囲を広げられると見込んでいる。
──県内でも類を見ない取り組みとして各方面から注目を浴びている。今後の展望は。
鈴木 まだ2年目で、事業所ができる今年がスタートアップの年という認識。利用者に支払う工賃が国や気仙の現在の平均よりも高くなる実績をつくるなど、事業がきちんと機能してやっと、ロールモデルになりうるのではないか。そうなるように努めていきたい。
個人としては、一番現場で汗を流すことが今年の意気込み。現場に赴き、実際の負担度を自身で確認しながら、産業と福祉双方に寄り添う。ほかの事業者もまねできるような産福連携の成功事例をつくり、地域課題の解決に貢献したい。
(聞き手・阿部仁志)