生きる知恵 伝承に光 キャッセンの「あの日」学習プログラム 本年度防災まちづくり大賞で最高賞に

▲ 大船渡高校「大船渡学」のフィールドワークで「あの日」を体験する生徒たち(昨年12月)

 大船渡市大船渡町のキャッセン大船渡エリアを中心に体験できる「防災観光アドベンチャー『あの日』防災学習プログラム」が、総務省消防庁による本年度の「防災まちづくり大賞」で、最高賞に当たる総務大臣賞に選ばれた。スマートフォンから東日本大震災の経験を伝える音声が流れ、高台への迅速な避難など「生きる知恵」を学べる仕組み。震災発生から、きょうで13年11カ月。関係者は復興事業で整備された空間のにぎわい創出と、教訓伝承の両立への決意を新たにしている。(佐藤 壮)

 

きょう震災13年11カ月


 「防災まちづくり大賞」は、平成7年の阪神・淡路大震災を機に8年度に創設された。地域に根ざした団体・組織など防災に関する優れた取り組みに加え、防災などに関する幅広い視点からの活動を表彰、紹介することで災害に強い安全なまちづくりの推進を目的としている。
 29回目となる本年度は、全国20団体が受賞。最高賞に当たる総務大臣賞には、「あの日」を運営するキャッセンエリアプラットフォームを含む3団体が選ばれた。
 同プラットフォームは、都市再生推進法人である㈱キャッセン大船渡と市、大船渡駅周辺地区の各事業者による地域の官民組織で構成。「あの日」は、スマートフォンを片手に復興事業で整備された空間を歩き、津波襲来時を疑似体験できるアドベンチャーゲームとして開発し、令和4年から体験版の運用が始まった。
 東北大学災害科学国際研究所柴山明寛准教授が共同開発・監修を担った。地元住民・事業者の経験をもとにした「避難行動」に焦点を当て、音声などで拡張現実(AR)に触れながら、震災の疑似体験に没入できる。
 当時、住民らが実際に体験した出来事をもとに「分かれ道」で進む先を選ぶクイズを収録している。昨年から、ゲームの振り返りや事前・事後学習を完備した体系的学習プログラムとして提供。市観光物産協会と協力しながら防災教育旅行での活用を進め、震災の全体像を学べる陸前高田市の東日本大震災津波伝承館とも連携を図っている。
 運用が始まり、コロナ禍の影響が収束すると、発災時は幼かった高校生や大学生らがスマートフォンを手にキャッセンエリアを歩く光景が増え、遠方からの来訪、滞在をつなぐ役割も果たしてきた。運営主体のキャッセン大船渡では、エリア内で開催されるイベントなどを生かし、地元の人々が体験できる機会づくりにも力を入れている。
 キャッセン大船渡の田村滿代表取締役は「大学機関をはじめ、皆さんのご支援のたまもの。『津波てんでんこ』という言葉をどう受け止めるか考え、一人一人が命を守る大切さを感じられると思う。命があれば何でもできるという本質的なことを学べるのではないか」と話す。
 キャッセン内外を各地を歩くことで、沿岸部から高台への迅速な避難行動の大切さや経路を学ぶだけでなく、運動促進、まちの現状を知るといった効果も大きい。田村代表取締役は「もっと地域に広がっていけば」と期待を込める。
 表彰式は21日(金)に都内で開催。発災14年となる3月11日(火)にはキャッセンエリアで「無料体験DAY」も計画している。