賛否割れる住民意見 三陸町吉浜の太陽光発電計画巡り説明会 経済効果や工法、環境影響評価示す
令和7年2月12日付 1面
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大船渡市三陸町吉浜の市有地で大規模な太陽光発電事業を計画している自然電力㈱(本社・福岡県福岡市、磯野謙、川戸健司、長谷川雅也代表取締役)は10、11日の両日、同事業の環境影響評価(環境アセスメント)準備書に基づく説明会を開催した。自然電力側は、経済効果や湿地を避けるパネル設置計画、環境面の影響調査結果などを示した。出席者からは環境配慮への対応を評価して推進を求める声が出たが、土砂流出や景観変化、山火事などへの懸念から反対を訴える意見も飛び交った。(佐藤 壮)
環境アセスメントに基づく説明会は一昨年9月以来で、10日夜はリアスホールで、11日は旧吉浜中体育館で開かれ、それぞれ約50人が訪れた。自然電力や調査を受託している日本気象協会の説明は、両日ともほぼ同じ内容で行われた。
自然電力電源開発本部の笠間貴之国内太陽光開発統括ディレクターは、事業概要説明の中で地域経済、財政などへの貢献に言及。「20年間で約40億円の経済効果を見込む。固定資産税が9・5億円、市への賃料が2・3億円、工事が20億円で、維持管理で10億円、地域貢献は1億円をみている」と語った。
事業地は「元山」を中心とした約98㌶で、このうち工作物を設置するのは27㌶。太陽光パネルは大窪山牧場跡地に集約する形で約7万6600枚を計画している。重要な動植物の生息・生育域である湿地群落を極力回避し、下草が生えやすいようにアレイ(パネルを設置するための架台)の間隔を確保する。
環境影響評価に関しては、工事車両走行ルートも含めた区域の大気質、騒音、水質の調査結果が示され、このうち水質は通常範囲の降雨では排水基準を下回るほか、大規模崩壊の可能性も低く、地盤にも問題となる地層がないと判断されるという。
動物の生育環境に関しては、実行可能な範囲で影響の低減が図られると評価した一方、希少猛禽類のイヌワシや、草地に生息してシカのふんを餌とする昆虫類のダイコクコガネに関する予測は不確実性があり、事後調査を計画していることも明らかにした。
住民からは、事業推進の観点から「環境に配慮している」「最初は反対したが、今は賛成している」「牧場は原発事故の放射性セシウムで使用不能になり、放牧需要も減少した。未利用資源を何とかして活用して」「吉浜だけではなく、地球規模で考えるべきではないか。環境アセスの結果を尊重すべき」と、取り組みに評価する声が寄せられた。
反対の立場では「景観への認識が低いのではないか。湿地を用地で囲いこむのでは配慮の意味をなしていない」「大窪山は、今のままであればきれいな水が保証されている。太陽光は取り消して」との声も。火災延焼を防ぐ消火設備や大雨・強風時の不安に加え、準備書内の濁水処理に関する数値表記に一部誤りがある点への指摘もあった。
さらに「一日も早い工事着手判断を市に求めるべき」との発言が出た一方、環境アセスの準備書に関する内容ではない観点から不安・反対を示す意見も。発言指名を受けた住民以外が声を上げたほか、終了時間を大幅に超過した中でも発言を希望した全員にマイクが回らず終了となり、騒然とする一幕もあった。
自然電力側は、意見書提出を受け付けるとし、理解を求めた。それでも、依然として事業全体に対する市民意見の反映や住民理解を深める機会づくり、対話の場をどう確保し続けるかといった課題も印象づけた。
環境アセスメントは、大規模な開発事業などを行う場合、周辺環境の影響を事業者自らが調査・予測・評価を行い、県民や首長らの意見も聞いて環境影響の低減を図る手続き。準備書は、これまでの環境影響評価の結果を取りまとめた。
自然電力は年内の評価書提出を見込み、一般的には、評価書の公告・縦覧を経て、工事着手となる。ただし、土地所有者である市と事業者が締結した停止条件付きの土地賃貸借契約に基づき進められるため、市当局の賃貸可否判断が重要となる。
一昨年11月の環境アセス方法書に対する知事意見では、地域住民らとの意見交換の重要性にも踏み込んだ。市当局は「市民の事業理解に大きな関心を寄せている」の姿勢を示す。
準備書は自然電力ホームページで確認できるほか、市役所本庁市民環境課と三陸支所、大船渡地区合同庁舎県民ホールなどで縦覧している。3月14日(金)まで平日の開庁日に対応する。意見書の受け付けも同日まで受け付ける。