佐々木市長 1期目任期折り返し迎え決意 日本農業遺産認定目指す 医療と教育充実にも意欲

▲ 「日本農業遺産登録を目指し、医療と教育の充実にも重点的に取り組む」と語る佐々木市長

 陸前高田市の佐々木拓市長(61)は13日、就任から2年を迎え、1期目の任期の折り返しとなる。県内14市の中で、最も人口が少ない市のトップは大胆な選挙公約を掲げ、人材育成策、産業分野などで目に見えた成果を上げる一方で、大学誘致をはじめ進ちょく状況が不透明な政策もある。農業分野では市花のツバキを生かし、国の「日本農業遺産」への登録を目指す方針を示した。活力あるまち形成に向け、「最も重要なのは医療と教育の充実」と強調し、「気仙地区内にある公立高校に医学部進学専門コースを一つつくれないか、近隣自治体の首長と検討を始めた」と明かした。(高橋 信)

 

 佐々木市長は今月上旬、東海新報社の取材に応じた。「市民が安心・安全で健康な暮らしを送ることが最も大切であり、大きな災害に遭わず幸いだった。引き続き将来に向けたまちづくり、人づくりを着実に進めたい」と、就任以降を振り返った。
 市長選での公約のうち、学校給食費の無償化は令和5年度に実現。返済不要の給付型奨学金制度は6年度から本格的に運用している。水産分野では、大手の㈱ニッスイ(本社・東京都)が広田湾漁協との共同でサーモンの海面試験養殖に乗り出し、昨年6月に初水揚げした。
 市長は「人材なくして将来のまちづくりはない。給付型奨学金はそうした趣旨に賛同し、多額の寄付をいただき、本当にありがたかった。サーモン養殖は来夏の正式な漁業権取得に向け、これからが重要な時期。市として可能なサポートは引き続き行う」と語った。
 農業分野では、伝統的な農林水産業を営む地域を認定する「日本農業遺産」登録を目指し、「椿茶」の製造・販売などを手掛ける㈱バンザイ・ファクトリー(本社・大船渡市)や東京大、岩手大などと連携する方針。「極めて優良なマーケットを持つツバキの生産拡大、雇用創出を図っていく」と見据える。
 林業分野では、国のJ─クレジット制度を活用した「森林クレジット」の販売、「企業等による森づくり制度(企業の森制度)」の運用を開始。「持続的な林業を築いていくうえで、企業・団体などと連携した非常に良い取り組みが始まった」と期待を込める。
 一方、公約の目玉「大学誘致」や「新規雇用1000人創出」の達成に向けた見通しは不透明で、市民から批判的な意見もある。
 大学誘致に関しては、岩手大、立教大が来年度から、正課として単位を付与する合同授業を本格実施する。企業誘致に向けた交渉も水面下で進めている。
 市長は「大学や企業の誘致は自治体間の競争でもあるため公表できないが、東京大や県内の大学などと話し合っている。発表できるような段階を迎えれば、その都度示していく」とし、「批判的な声こそ、市政を前に進めるうえで大切。真摯に受け止め、改善に向けて知恵を絞りたい」と語った。
 本県は「医師少数県」で、偏在の是正も大きな課題だ。「地域を守る人材を自ら育成することが重要。そうした観点から気仙にある公立高校に医学部進学専門コースをつくれないか検討を始めた。オンラインなどを駆使し、都市部と地方との教育の格差も解消したい」と意欲を示す。
 将来の存続が危ぶまれる「消滅可能性都市」、課題先進地域などとのネガティブな見方には真っ向から異議を唱え、「地方ゆえの強みはある。市の規模が小さいからこそ小回りはきく。市民の意見を丁寧に聞き、まちづくりに反映させたい。20年後、30年後のまちに生きるような施策を一つでも多く実現させるため、残り2年間全力を尽くす」と前を向く。
 佐々木市長は広田町出身。東京水産大(現・東京海洋大)卒業後、昭和62年に農林水産省に入省し、令和4年12月に退職。5年2月の市長選で現職との一騎打ちを制し、初当選した。任期は9年2月12日まで。