東日本大震災14年/地域に本届け続けたい 読書推進運動功績者に「ささ舟」 津波で打撃も活動17年超

▲ 読み聞かせなどを通じ、地域住民を癒やしてきた「ささ舟」のメンバー

 このほど盛岡市で開催された「県読書をすすめるつどい」(主催・県読書推進運動協議会、県教委)において、陸前高田市の読書ボランティア「ささ舟」(磐井律子代表、会員9人)が読書推進運動功績者として表彰された。東日本大震災で大きな打撃を受けながらも、読み聞かせが子どもや被災者のみならず、自分たち自身も癒やすことにつながると実感してきた会員たち。震災からまもなく14年が経過し、当時の子どもらがすでに親世代となる中、「まだ被災の影響が残る陸前高田で本を届け続けたい」と意欲を新たにする。(鈴木英里)

 

 ささ舟は平成19年4月、市立竹駒小学校の読み聞かせボランティアとして発足。23年に発生した大震災では、3人いた会員も津波で家を失ったり、家族や身近な人を大勢なくした。
 失意の中、当時の同校校長だった伊藤清子さんから「子どもたちのため、どうにか」と懇願され、メンバーは悲しみを隠し同校で読み聞かせを行った。しかし児童が全く笑わない。代表の磐井さん(81)は「読み手の不安は子どもたちにも伝わる。これでは無理だ」と活動を続ける自信を失いかけた。
 転機は、絵本作家・宮西達也さんが同校へ読み聞かせに来てくれたこと。ユーモアたっぷりの語りと演出。最初は〝笑っていいのかな〟と互いに顔を見合わせていた児童らも、1人が吹き出すとそこからは会員も一緒に大笑いの連続となった。「私たちにもまだ笑える力が残っていた」。ならばもう少し頑張れるはずだ──磐井さんらがそう気づくきっかけになった。
 やがて他の小学校や避難所、住田町の施設でも同会が読み聞かせするようになると、大人たちも「物語に触れる」効能に気づき始めた。このころの活動をきっかけに加わった小田文香さん(52)のようなメンバーもいる。

 会員らの背中を押したのは宮西さんだけではない。名古屋市役所から平成23年4月~24年3月まで派遣されていた日髙橘子さん(64)=現・中京学院大学教授=の存在も大きかった。
 発災1年未満のころ、日髙さんは「早く独り立ちしなさい。今後もっと、読み聞かせは心のケアとして重要となる。あなたたちが仮設住宅に住む高齢者を励まし、力になるんだよ」と厳しい口調で、半ば強引に役割を課したのだ。
 「私たちも被災者なのに…」とショックを受けたメンバーだったが、仮設住宅や高齢者が集うサロンで活動する中、涙を流して聞く人たちを目の当たりにし、悲しみ、怒り、喜びなど、抑え込んでいた感情の解放にも読み聞かせは意味があると気づかされた。求められる場が広がるのに応じ、ストーリーテリングやペープサート(紙人形劇)などにも挑戦。プロに学び、スキルアップにも努めるようになった。
 「絵が上手」と見込まれ、活動に誘われた小林チトセさん(78)は、高齢者向けに民話や神話も語れればという会の意向を受け、『やまたのおろち』などのロール式紙芝居を制作。小林さんは「描いて楽しく、会員に喜ばれてうれしく、見た人が楽しんでくれてなおうれしい」と、携わる喜びをかみしめる。
 震災でつらい経験をした会員にとっても、活動は自分たち自身を癒やす行為に等しかった。初期から参加する後川安希子さん(77)は「『やることがある』という幸せは、家に閉じこもっていては感じられなかった」と、吉田京子さん(74)は「私の居場所。絵本を仲立ちにして、自分も高めてこられた」と振り返る。
 「陸前高田はまだまだ被災地」と磐井さん。「14年前は子どもだった今の若い親たちは、震災当時とは違う意味で子育てに苦労している」といい、親子らに読み聞かせの場を提供していくためにも「世代交代は必須」と、会員たちと相談し50代の小田さんを後継者に指名した。
 磐井さんは「読書推進に寄与したと評価を受けたことはありがたいが、私一人に続ける力はなかった。メンバーが力を持ち寄り、多くの支えを頼りにしてきたからこその17年。宮西さん、日髙さんとのお付き合いも続いている。私がしてもらったのと同じように、小田さんに皆で手を貸しながら、これからも本を届け続けられたら」と語り、元気で活動していくことを誓う。