マスカットサイダー〝復活〟 マイヤが各店舗で販売開始 気仙など 神田葡萄園の伝統の味受け継ぎ
令和7年2月22日付 7面
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大船渡市の㈱マイヤ(井原良幸代表取締役社長)は、昨春に陸前高田市の㈲神田葡萄園(熊谷晃弘代表取締役)から販売権の譲渡を受けた炭酸飲料「マスカットサイダー」を新たにパッケージ化し、21日から岩手、宮城両県のスーパーマーケット、マイヤ・びはん20店舗で販売を開始した。半世紀にわたり地域に親しまれてきた地サイダーが〝復活〟を果たし、マイヤでは、同園の思いを引き継ぎながら「再び地域の皆さまに愛される商品になるようPRしていく」と力を込める。(阿部仁志)
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15日に高田店で行われた試飲会
マスカットサイダーは昭和45年に誕生。長きにわたり地元住民に愛され、東日本大震災後は、復興支援で全国から訪れたボランティアらが土産品として買い求めるなど評判が広がり、県内外にファンを増やした。
令和2年以降の新型コロナウイルス禍では、瓶不足や原材料費の高騰に苦しみ、製造設備の老朽化も追い打ちをかけた。神田葡萄園では、苦渋の決断として生産終了を決め、昨年2月末に製造を終えた。
これを受け、マイヤでは「地元企業として地元の味を引き継ぎ、守っていきたい」と、商品の継承を打診。神田葡萄園の合意を得て販売権の譲渡を受け、オリジナル商品としての販売を目指してきた。
〝復活〟を果たしたマスカットサイダー(340㍉㍑、税込み269円)は、原材料や作り方は従来のまま。懐かしい甘味やほのかなマスカットの香りを楽しめる。
パッケージは一新され、手で簡単に開けられるスクリューキャップ式の透明瓶を採用。緑色を基調としたデザインや、エビス印、商品名のフォントなどは以前のものを引き継いだ。
商品開発にあたっては、地域住民が慣れ親しんだ「王冠を使った緑色の瓶」を採用しようと試み、全国各地を回ったが業者が見つからずに断念したという。
商品開発責任者で、マイヤ第1商品部バイヤーの大森康司さん(61)は「緑色のボトルのイメージを何とか残そうと、ラベルの他に首掛けの部分を作るなど、もとの商品を想起させるようなデザインを目指した。地元で長く愛された商品のともしびを消さないよう、さまざまなことを模索した」と振り返る。
販売スタートに先駆け、今月15日にマイヤ高田店(小野田謙店長)で試飲会を実施。幅広い世代の来店客に、新しいマスカットサイダーを振る舞った。
試飲した同町の70代女性は「おいしかった。子どもたちにも喜ばれると思う」と、矢作町の30代女性は「以前よりもすっきりとした味わいに感じる。昨年、マスカットサイダーがなくなると聞いたときは残念に思っていただけに、また販売されることになってうれしい」と、それぞれ語った。
小野田店長(55)は「以前と変わらないという声もいただいたが、実際に受け入れてもらえるかどうかは販売してみないと分からない。順調にいってほしい」と願った。
販売開始日となった21日は、同店でメディア向けのお披露目会も開かれた。冒頭、マイヤ第2商品部の藤原浩孝統括マネージャー(59)が「買っていただいたお客さまに、笑顔で楽しんでもらいたい」とあいさつ。
次いで、大森さんが開発経緯を説明。「今月3日に神田葡萄園の皆さんに試飲していただいた際、『われわれの手を離れてついに旅立つ時が来たんだ』というお話があった。愛される商品を残したい、という気持ちが伝わった」と話した。
バトンを託す形となった神田葡萄園の熊谷代表取締役(41)は、「約1年かけ試行錯誤していただいたこと、そして商品が一つの形になったことをうれしく思う。これからも多くの人にマスカットサイダーが愛飲されること、新しいファンも作られることを願う」と期待をかけていた。