浜止め続くイサダ漁 大規模林野火災で出漁できず 水産業への影響色濃く(別写真あり)
令和7年3月5日付 7面

大船渡市魚市場を水揚げ拠点とするイサダ漁は、延焼が拡大している大規模林野火災の影響で出漁できない状況が続いている。本県沿岸や宮城県では水揚げが始まっているが、漁業者の多い三陸町綾里や赤崎町は避難指示区域となっているほか、周辺海域では自衛隊などのヘリが海水を使った消火作業を展開しており、先が見通せない。いつ日常が戻るのか、出漁はできるのか──。水産業をなりわいとする人々の不安は尽きない。 (菅野弘大、清水辰彦)
イサダはツノナシオキアミの別称で、主に養殖や遊漁の餌として流通。例年2月下旬から3月上旬に解禁となり、漁況次第では4月末ごろまで水揚げが続く。魚市場岸壁に水揚げされるカゴに入った色鮮やかな桜色の魚体は、寒さが残る浜に春の到来を告げる。
今季、気仙地区では2月25日に漁が解禁されたが、同26日午後に赤崎町合足で発生した林野火災が大規模化。避難指示が出された綾里、赤崎の漁業者らは、火の手が及ぶ危険の少ない市魚市場に漁船などを移動させる対応に追われ、出漁が難しくなった。
県沿岸漁船漁業組合の志田惠洋組合長理事(76)=赤崎町=は、気象状況を見る中で火が来る恐れを感じたといい、避難指示が発令される前に大船渡町の親戚宅へと避難し、漁船も市魚市場へと移動させた。今季イサダ漁については「いろいろな状況を見ながら検討し、判断する」としており、「まずは一日も早く火が消えることを願うしかない」と話す。
海況などの変化の影響で、イサダの漁況も思わしくない状況が続く。市魚市場の統計によると、昨季イサダ漁の実績は鮮魚出荷、冷凍、加工合わせて前年比69%減の913㌧。気仙沿岸に漁場形成がなかったために遠くの漁場での操業を強いられ、しけで出漁できない日も多く、厳しい実績に終わった。
しかし、今季は今月1日に宮古、大槌で初水揚げがあったほか、昨季は水揚げゼロに終わった宮城県でも漁獲されていることから、気仙沿岸の漁場にも群れがいる可能性が高い。ある水産加工業者は、今季の漁について「昨年よりも海水温の状況も良く、漁期前から『いるんじゃないか』という期待があった。定置網が休漁に入り、春漁としてイサダに向かっていた中、漁ができないとなると相当な痛手になる。早く事態が収束して、従来通りの漁ができる環境に戻ってほしい」と願う。
市魚市場ホームページの入船情報には、「船曳網 休漁」の文字が連日掲載されている。2月末時点での本年度実績は水揚げ数量、金額ともに昨年度を上回っているものの、イサダの休漁が続けば、各方面にも影響が及ぶ。
大船渡魚市場㈱の佐藤光男専務は「イサダが来なければ、年度終盤で大失速ということになる。ものがないと買い受け人は仕事ができず、梱包や運送、給油など、経済的にも広く影響が出る。生産者も出漁に向けて準備をしてきて、『これから』というタイミングでこの事態。火災の鎮圧を待つしかないのか」と気をもむ。