森林再生にも意欲 火災で9日間休業の鹿児島屋(越喜来) 作業遅れ挽回へフル回転 万博へ松葉の提供も
令和7年3月16日付 7面

大船渡市の赤崎・綾里大火の影響で9日間休業した三陸町越喜来甫嶺の製材業・鹿児島屋(及川壮士社長)は、業務の遅れを取り戻すべく急ピッチで作業を行っている。同社は全国の重要文化財などの修理・新築のために県産アカマツを製材・出荷しており、年度末が納期の製品も多い。社屋と工場は無事だったものの、及川喜久平会長(79)所有の山林が延焼。大火の林業への影響はまだ明らかになっていないが、同社では「失われた森林の再生に貢献したい」と力を込める。(清水辰彦)

万博用の松葉採取も慌ただしく行われている
火災発生後、1日に甫嶺地域に避難指示が発令され、同社も稼働を停止。避難指示解除後の10日から業務を再開した。業務が中断したことで作業には大きな遅れが生じ、納期も迫るが「なんとか頑張るしかない」と及川会長。社員らは安全に留意しながらも、フル回転で業務にあたっている。
会社は被災を免れたが、及川会長が個人で所有していた綾里地区内の山林約10㌶が被害を受けた。甫嶺地域にある自宅近くまで火の手が迫り、「正直、自宅が燃えるのを覚悟していた。風向き次第では工場も危なかった」と振り返る。
及川会長は、東日本大震災で、特別養護老人ホームでショートステイ中だった母・久子さん(当時84)を亡くした。
悲しみに暮れたが、立ち止まりはしなかった。通常業務に励む一方で、失業した漁業者らを雇用し、仮設住宅建設で使われる杭を製造。被災した高田松原の松に防腐・防虫処理を施し、京都市の企業に数珠の製作を依頼し、販売収益を奇跡の一本松保存のために寄付するなど、復興も後押ししてきた。
今回の火災による林業への影響について、現段階で詳細は分かっていないが「復興のためにできることをやりたい。森林再生のために、みんなで力を合わせていきたい」と前を向く。
同社では、4月から大阪府で開かれる大阪・関西万博のポップアップステージ「西」で使用する松葉を、今月から8月まで、毎月4000本以上出荷することとなっており、これに向けて連日、作業が行われている。
ポップアップステージはイベント開催のための広場で、万博会場には「東外」「東内」「西」「北」「南」の計五つが設置される。このうち、同ステージ「西」は、2本の細い鉄骨柱に松の皮付き丸太を1本架け、丸太の上に松葉葺きの屋根を設置する形状。
ここで使われる松葉を、すべて同社が提供。甫嶺地域内の高齢者をパートとして雇用し、均等な長さに松の枝を切り、10本ずつ束ねていく。こちらも火災の影響で遅れてはいるが、作業する人からは「地域のものが使われるのは楽しみ」といった声が聞かれ、出荷日が迫る中でも、万博開幕へ期待を膨らませながら作業に汗を流している。