心のよりどころ復元へ 総合葬祭米沢 大火被害の遺影無償提供

▲ 火災による被害を免れ、現在は営業を再開している「千の風」

 大船渡市の総合葬祭米沢(米沢克尚代表取締役)は、大規模林野火災で亡失した遺影の所有者を対象に、同社が運営する三陸町綾里のセレモニーホール「千の風」、赤崎町の同「INORIA(いのりあ)」で保管している遺影を無償で提供する。「故人の大切な記録を持ち出せず、ショックを受けている人を少しでも安心させたい。遺影を〝心のよりどころ〟としている人も多い。可能な限り復元に努める」と、地元に寄り添い、復旧・復興に向かってともに歩んでいく姿勢を示している。
 東日本大震災時も、同様の対応を行った同社。多くの人から安心と喜びの声が聞かれた経験から、今回も迅速に対応に乗り出した。
 千の風は綾里の清水地区にあり、火災が発生した2月26日から避難指示対象区域となった。
 発災時、千の風では通夜の準備が進められていた。避難指示を受けて作業を中止し、遺体を霊きゅう車に移して遺族とともにINORIAに避難。「自宅は諦めるしかない様子で、千の風も覚悟をした。震災でも痛手を負い、立ち直ったばかりの出来事に胸が詰まりそうだった」と、米沢代表取締役(66)は振り返る。
 港地区にある自宅の様子を確認することはかなわず、避難指示解除後、土台だけを残して燃えかすと化した自宅と対面した。多くの思い出の記録とともに、親戚の遺影、位牌を失った。現在は綾姫ホールで避難生活を送っており、被害を免れた千の風と行き来しながら営業している。
 米沢代表取締役の長男で式場責任者の優希さん(36)は「たくさん思い出が詰まっていた。自分自身も家を失い、遺影、位牌ともに燃えてしまったからこそ、気持ちが分かる。亡くなった人との思い出は、新しくつくることができない」と語る。避難所でも、遺影や位牌を持ってこられなかったことを悔やむ住民の姿に何度も出会った。
 米沢代表取締役は「自宅は燃えてしまったが、千の風は無事だった。地元で唯一の葬祭会館として、その役割を今後も果たしていくことはできると思っている。遺影についての相談はいつでも受け付ける。自分を含め、まだ心に余裕がないという人はたくさんいるだろう。落ち着いて、考えられるようになった時に声をかけてくれれば」と話している。
 同社によると、約20年前までの写真データは保管されているという。同社が葬儀を行い、遺影の作成に関わった故人のものに対応が可能。古いデータは破損している可能性があるほか、写真の作成に同社が関わっていないケースは対応できない。20年以上前のデータも存在している可能性があるとして、「まずはご相談を」と呼びかけている。
 遺影の復元時は、額に納めた状態で提供する。期間は設けず、長期間で相談を受け付ける。相談する際は、名前と没年日が分かるとスムーズな対応につながるとして、協力を呼びかけている。
 問い合わせは、両ホールに来所するか、電話(千の風℡42・2543、INORIA℡22・8322)で受け付けている。