炎に囲まれ命からがら避難 綾里・小路地区で火災に遭遇 気仙地方森林組合の佐藤さん
令和7年3月30日付 7面

気仙地方森林組合労務職員の佐藤幸宏さん(53)=住田町世田米=は、大船渡市大規模林野火災に巻き込まれながら、かろうじて逃げることができた。あの日、三陸町綾里小路地区の山林での伐採作業中に火の手が迫り、四方を炎に囲まれて「死を覚悟した」。地元住民とともに逃げ込んだ漁港から県警の警備船で避難し、「あと5分遅れていれば危なかった。迅速な避難が重要だと身をもって知った」と振り返る。(高橋 信)

「5分遅ければ危なかった」と避難時の様子を振り返る佐藤さん
火災発生日の2月26日は、小路地区で杉の木を伐採する作業2日目だった。組合の若手職員と計3人で仕事していた佐藤さんは昼食を食べ終わった午後1時頃、その後の仕事の段取りを考えていると、防災行政無線のサイレンが聞こえた。
「火事であることは分かったが、内容まで聞き取れなかった。どこだろうと思っていた」。一緒にいた後輩が「なんか焦げ臭い」といい、スマートフォンで火災情報を調べてみると、出火元が小路地区に接する赤崎町合足であることが分かった。
「仕事の手足となる機械を火事で失うわけにいかない」。作業現場には木の伐採や丸太の運搬時に不可欠な重機4台を配備していた。合足からは1㌔以上離れており、安全な場所に重機を移動することを優先した。
15~20分ほどかけて荷物をまとめ、午後1時30分頃、重機に乗り込む間際、聞いたことがない音が響いた。

大船渡港(茶屋前地区)に到着し、県警の警備船から下りる避難者(2月26日)
「バリバリバリ、バキバキバキ」。
猛烈な勢いで炎が木々に燃え広がる音だった。間近に迫っていることに気付き、佐藤さんら3人は直ちに重機2台と車1台に分乗。現場から約400㍍先にある海側の県道に向かった。
バックホーを運転した佐藤さんは、炎に囲まれながら無我夢中で作業道を走り、県道に到着。しかし、背後の山から、県道を挟んだ海側にすでに飛び火しており、目の前も燃えていた。県道の石浜方面も煙や炎が見え、逃げ道を絶たれた。
その後、近くの漁港に移動している地元住民に誘導され、重機を県道脇に置き、小路漁港(田の尻地区)へ。漁港周辺の木々からも煙が上がっていた中、しばらくして県警の警備船が救助に駆けつけ、佐藤さんや住民ら6人が乗船し、大船渡港に避難することができた。
佐藤さんは「元消防団員で山火事の恐ろしさは分かっていたが、今回は全く次元が異なり、素人では想像できない速さで燃え広がった。あと5分行動が遅ければ本当に危なかった。津波だけでなく、どんな災害でもまずは逃げることが大事だと思い知らされた」と強調。「広田湾漁協から養殖施設用として発注があったスギ材を納められず、大変申し訳なく思う。火災における組合の損失も甚大で、公的支援をお願いしたい」と求める。