大規模林野火災 市が鎮火宣言 発生から40日「再燃なし」 延べ3万人の消火活動展開 生活となりわい再建へ節目

▲ 延焼や全域避難指示を乗り越え、鎮火を迎えた綾里地区

県防災ヘリで焼失区域全域を目視で確認

 大船渡市赤崎町合足地内で2月26日に出火し、同町と三陸町綾里などに延焼した大規模林野火災について、同市は4月7日午後5時30分、鎮火を宣言した。現段階で焼失面積は約2900㌶と平成以降では国内最大の規模に及んだ中、自衛隊や県内外の消防関係者らの懸命の消火・警戒活動により、発生から40日で大きな節目を迎えた。一方、86棟の住家が被害を受け、今も200人近い住民が避難生活を送り、農林水産・商工分野にも大きな打撃を与えた。今後はさらにスピード感ある復旧・復興への取り組みと、きめ細かい支援策の充実が求められる。(3面に特集)

 

 延焼拡大の危険がなくなったと判断した先月9日の鎮圧宣言以降も、上空からの熱源調査に加え、大船渡地区消防組合や消防団関係者が鎮火に向けた残火処理を実施。今月5日には林道や再燃箇所の最終調査が行われ、7日は現場最高責任者である大船渡消防署の新沼晃署長と渕上清市長、大田昌広消防団長らが県防災ヘリで焼失区域全域を目視で確認した。
 その後、市役所三陸支所で最終調査結果を協議。新沼署長が鎮火を判断し、渕上市長に報告。午後5時30分、渕上市長が鎮火を宣言した。2月19日に三陸町綾里田浜下地域で発生し、同25日に鎮圧宣言を出した林野火災の分も含む。同50分には、防災無線で市内全域に周知された。
 渕上市長は「緊急消防援助隊や市消防団などの懸命な活動により、熱源が確認されず、再燃しない一定の期間が経過した。今後は、一日でも早く平穏な生活を取り戻せるよう、暮らしの再建やなりわい再生に取り組むほか、火災予防と災害力強化に努める。関係機関の皆さんに、重ねて感謝を申し上げたい。活動に関わった全ての皆さんの献身的な姿は、大きな力となった」と述べた。新沼署長は燃焼範囲の広大さに加え、降水量が少ない気象状況、再燃箇所有無の確認などを挙げ、長期間に及んだ鎮火判断の難しさも明かした。
 発生初日に立ち上げた災害対策本部は継続。消防署による定期的な巡視、各消防団の夜警活動も当面続けることにしている。
 大規模林野火災は、2月26日午後1時2分、合足漁港付近にいた人からの通報で覚知。前日に鎮圧した綾里田浜下で出火した林野火災、末崎町にも延焼し、当日鎮火に至った陸前高田市小友町の林野火災対応に追われていた中で発生した。
 強風などの影響に伴い、短時間で延焼が拡大。市は約30分後に災害対策本部を設置し、自衛隊や緊急消防援助隊の派遣を要請した。
 避難指示は、同日から3月1日にかけて順次拡大。対象は、綾里全域と赤崎町の蛸ノ浦地区、上三区地域に加え、三陸町越喜来の甫嶺地域にも及び、総計で市民の10%超に上る1896世帯4596人となった。
 地上からの消火活動では、火災発生直後だけでなく延焼拡大防止や、鎮圧後の警戒活動など、これまでにない相当規模の動員が行われた。特に、消防署や消防団をはじめ緊急消防援助隊、県内相互応援隊の動員総数は延べ3万人を超えた。警察も、避難指示区域での通行規制や警備など、延べ3000人体制で対応にあたった。
 空中消火活動は、発災から20日以上にわたり、自衛隊の大型ヘリや東北内外から防災ヘリが集結し、散水、偵察活動が繰り広げられた。海水も用いた散水は延べ211機で計約2000回超に達し、延焼を食い止める懸命の活動が続いた。
 焼失面積は現段階で2900㌶と、平成以降では国内最大の林野火災となった。死者は綾里地区で1人。建物被害221棟のうち、居住使用の住居は86棟で、このうち全壊は54棟に及ぶ。立根町の県立福祉の里センターと、三陸町綾里の綾姫ホールの各避難所、親戚・知人宅などに身を寄せる被災者は依然として200人近くに及ぶ。火災原因は、7日段階でも「調査中」とする。
 産業分野の被害のうち、農林業関係では、避難指示に伴うブロイラー被害が2事業者、農家の倉庫焼損は16戸に及ぶ。1事業者の菌床シイタケ栽培施設、気仙地方森林組合の林業機械4台も被害を受けた。
 水産業関係では、綾里漁協の定置漁業用倉庫に加え、施設内に保管されていた定置網漁具2カ統4セットが焼損。同漁協と大船渡市漁協に所属する計63組合員が倉庫、漁具等の焼失被害を受けた。アワビ養殖を展開する民間事業所では、停電等で約250万個がへい死した。
 さらに、商工・観光分野は、建物や機械設備といった直接的な被害だけでなく、予約キャンセルや避難指示期間中の売り上げ減少といった間接的な被害も浮かび上がる。損失・影響の総額など、被害の全容は明らかになっていない部分も多い。
 鎮火後も引き続き、早期の避難生活解消に向けた仮設住宅確保が喫緊の課題となる。住宅再建や漁業施設・漁具の復旧、森林再生の各分野では、既存制度では支援の手が行き届かない部分や、物価高騰など時代変化に合っていない状況も浮かび上がる。被災者の実情に合ったきめ細かい対応や、将来を見据えた持続可能な地域づくりを見据え、市、県、国だけでなく、民間や地域が一丸となって復旧・復興に進む体制づくりがより重要となる。


達増知事が談話

 

 達増拓也知事は鎮火宣言を受け、「発災から連日消火活動に従事された大船渡地区消防組合消防本部や大船渡市消防団をはじめ、救急消防援助隊や自衛隊、各県の各消防本部に感謝する」などとする談話を発出。県として▽くらしの再建▽なりわいの再生▽インフラの整備──を柱に掲げ復旧・復興に向けた取り組みを進めると明示した。