食の力で元気届ける サッカー代表シェフ務めた西さん 火災被害の綾里で炊き出し(別写真あり)
令和7年4月10日付 6面

サッカー日本代表の専属シェフなどとして知られる西芳照さん(63)が8日、大規模林野火災で被害を受けた大船渡市三陸町綾里を訪れ、避難所となっている綾姫ホールで炊き出しを行った。世界で戦うプロスポーツ選手たちを食事で支えてきた一流の料理人が、避難所生活を続ける住民らに温かい料理を提供し、生活再建やまちの復興に向けて食を通じた元気を届けた。
福島県南相馬市出身の西さんは、平成9年から古里に近いサッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」内のレストランで勤務。同16年には、日本サッカー協会の依頼で日本代表チームにシェフとして帯同し、以降、W杯ドイツ、南アフリカ、ブラジル、ロシア、カタール各大会を含めた海外遠征で、選手、スタッフに食事を提供する役割を担ってきた。このほか、ACLに出場したJリーグの浦和レッズ、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、直近では令和5年にラグビー日本代表、同6年にパリオリンピックなでしこジャパンの活動でも腕を振るい、選手の活躍を支えた。
14年前の東日本大震災では、Jヴィレッジで地震に遭い、福島第一原子力発電所の事故に伴う避難指示もあって東京に一時避難したが「被災した地元のために何かしたい」と、福島に戻り、原発事故の対応拠点だったJヴィレッジ内に喫茶店を開店。その後に株式会社を立ち上げ、広野町にもレストランを開業するなど、古里の復興を後押ししてきた。
今回の炊き出しは、震災直後から大船渡への支援、交流を続ける鹿島アントラーズサポーター・荒野季之さん(68)=茨城県石岡市=との縁で実現。荒野さんとは震災後、アントラーズ元選手の小笠原満男さんなど、東北出身のサッカー選手で結成された「東北人魂」主催のイベントを通じて知り合い、今回の火災も荒野さんから連絡を受けて、二つ返事で引き受けた。
西さんと荒野さんらは同日、20人余りが避難生活を送る綾姫ホールを訪問。日本代表選手にも提供した特製ハンバーグカレーを、住民や避難所運営スタッフに振る舞った。
カレーを受け取った住民らは、同日炊き出しに来ていた県飲食業生活衛生同業組合大船渡支部提供の汁物とともに笑顔で味わい、「おいしい」と感激の声を上げた。西さんにサインや写真撮影をお願いする姿も見られ、和やかな雰囲気が広がった。
「表向きは気丈に振る舞っているが、実際はいろんな思いを抱えていると思う」と住民らを気遣った西さん。「震災の時は、(小笠原)満男ちゃんも支援に来てくれたし、ボランティアにもたくさん助けていただき、あの時のお返しの気持ちとして来させていただいた。今回の火災は、震災と重なる部分もある。これからが大変だと思うが、明るい未来を信じて頑張ってほしい」とエールを送った。