避難指示解除から1カ月 既存制度の枠を超えた支援が鍵に 大規模林野火災 多様な課題浮き彫り
令和7年4月10日付 1面

大船渡市大規模林野火災に伴う避難指示の全域解除から、10日で1カ月となる。最大で市内人口の14%に当たる約4600人が対象となり、多くの人々が自宅に戻ることができた一方で、住家86棟が被災し、今も200人近い被災者が避難所などに身を寄せる。被災者の生活再建やなりわい再生に向け、既存制度ではカバーできない難しさや、人口減少をはじめ火災前からの課題も浮かび上がる。復旧・復興へのスピード感ある対応に加え、国や県などに課題を訴え、被災者支援充実につなげる重要性が増している。(佐藤 壮)
火災に伴う避難指示対象は、発生当日の2月26日時点では三陸町綾里の全域と合足地域だったが、27日に赤崎町の蛸ノ浦地区に拡大。28日は同町の中赤崎地区に、3月1日は越喜来の甫嶺東、甫嶺西、上甫嶺の各地域にも広がった。各地に設けられた避難所利用はピーク時で計1200人を超え、3000人超が親戚・知人宅で過ごした。
同7日から段階的に避難解除が進み、10日は綾里の全域と、赤崎町の合足、長崎、外口の3地域計979世帯、2424人も戻れることになった。ただし、各地域では多くの住家が被災。全壊した自宅を目にし、再び避難所に戻った世帯も見られた。
全壊13棟を含む住家被害21棟、住家以外も18棟に上った赤崎町外口地域。上空から見下ろすと、黒い山肌に加え、道路近くの山林にも火の手が及び、住宅にも達した火災の恐ろしさが色濃く残る。
産業面では、綾里漁協が保有する定置網や保管倉庫が甚大な被害を受けた。今月4日に大船渡入りした江藤拓農林水産大臣は、綾里漁協の定置網の再導入に対する支援補助割合を従来の50%から75%に引き上げるとともに、漁具保管施設の再整備でも国の50%補助に加え、県と市の上乗せ補助分計25%にも財政措置を適用する方針を示した。
一方、被災地域では、自宅近くに倉庫を構え、漁具を収納していた世帯も多い。漁具の被害に対し、公的な支援策は現段階では見えていない。停電やパイプ焼損の影響で甚大な被害を受けた綾里の養殖アワビ事業者に対しても、支援充実が求められる。
森林の復旧・再生事業でも、課題は山積。現段階の焼失面積は、平成以降の林野火災では国内最大の2900㌶に及び、森林が多くを占める中、膨大な作業が予想される。
立憲民主党の衆議院議員らが7日に大船渡入りした際には、市関係者が「激甚災害指定を受けたが、事業期間がある。被害木の伐採、搬出は発災年度を含む4カ年以内で、跡地造林も5カ年以内。林業従事者も減り、期間内では難しい。実質的な市の負担は1割だが、100㌶で数億円かかると言われ、それだけでも負担は数千万円に上り、財政的な問題もある」と、今後への不安を口にした。
住宅再建でも、近年は資材高騰が叫ばれる中、元の場所に戻る意向を持つ被災者に対してのさらなる支援充実が急務。現法下での生活再建支援金では、再建時の給付は14年前の東日本大震災時と変わらず最高300万円となっており、法改正や上乗せ支援を求める声は根強い。
5、6の両日、越喜来の三陸公民館で台湾佛教慈濟慈善事業基金会による住宅被害見舞金の支給が行われた。避難所に身を寄せる人々だけでなく、親族や知人宅などで過ごす人々も続々と姿を見せた。
綾里で被災した60代女性は「子どもたちに『古里』というものを残せなくなる辛さはあるが、まとまったお金がかかるし、今後の一人暮らしでの移動手段も考えれば、元の場所で再建を進める気持ちにはなれない」と話した。別の80代女性は「一人暮らしで、元の場所には戻れない。公営住宅に入れなかった時を考えると不安」と語った。
被災した三陸町綾里、赤崎町をはじめ、市内では火災前から人口減少が大きな課題だった。資金面だけでなく、少子高齢化が進む地域の現状も浮かび上がる。年齢や家族構成などで将来生活に不安を抱える人々にも、今後どう寄り添っていくか。多角的な視点からの取り組みが求められる。