■東日本大震災14年/津波全壊からの復旧完了へ 気仙町今泉の旧吉田家住宅 来月の開館に向け準備着々

▲ 炉にまきをくべ、開館に向けて期待を膨らませる関係者

 東日本大震災で全壊し、陸前高田市が整備した気仙町今泉地区の県指定有形文化財「旧吉田家住宅主屋」。建物は完成し、5月23日(金)を予定する一般公開に向けて準備が着々と進む。被災した部材の回収、脱塩、組み立てという世界的に前例のない事業で、気仙大工や地元内外の関係者が努力と技と知恵を結集させて進めてきた。発災から11日で14年1カ月。主屋が開館すれば、市によるハード分野の震災復旧事業はようやく完了となり、まちの再生から活用へと踏み出す結節点となる。(高橋 信)

 

きょう発災14年1カ月

 

 主屋内の集会室「だいどころ」で9日、炉の火入れ式が行われた。復旧業務を請け負った市建設業協会(畠山正彦会長)によるもので、関係者約10人が集まった。
 スギのまきをくべると、部屋に煙が立ちこめた。関係者は、かやぶき屋根上の棟部分にある「煙出し」から煙が出ていくのを確かめ、「しっかり機能している」と喜び合った。
 組み立て作業をけん引した棟りょうの気仙大工・藤原出穂さん(76)=小友町=も立ち会い、「建物が無事完成し、本当に安心している。たくさんの人に見てもらいたい」と来月の開館に期待を膨らませた。
 敷地内にある管理棟には3月下旬、主屋を含む19世紀初期の旧今泉村集落を400分の1の縮尺で復元した模型が設置された。
 模型は縦1㍍、横2㍍。東北工業大学工学部建築学科高橋研究室が平成25年、当時の絵図を参考に製作した。同大によると、完成後、今泉地区にあった集会施設に置かれていたというが、かさ上げ工事に伴う施設撤去のため、大学に持ち帰り、一時保管していた。
 主屋の完成を受け、同大から搬入。設置に当たった同大建築学部の中村琢巳教授は「江戸時代の暮らしが分かる模型。主屋本体とともに管理棟内も見学してほしい」と願いを込める。

管理棟に旧今泉村の縮尺模型を設置した東北工業大の中村教授(右端)や学生

 吉田家は江戸時代に仙台藩の旧気仙郡24カ村を統治する地方役人の最上位職「大肝入」を代々世襲し、主屋は享和2(1802)年に建築。建物は仙台藩の地方支配を物語る貴重な遺構として、平成18年、県指定有形文化財(建造物)に指定された。
 震災で全壊し、吉田家現当主や地域住民らが散り散りとなった部材の回収に当たった。住宅全体の約6割の部材を集め、洗浄・脱塩などを行った。
 現場での建設は、令和3年7月に着手。救出された部材が主屋のどこに使われていたのか不明で、手探りの作業を強いられた中、ベテラン大工が経験を生かし、江戸期の平面絵図や文化財調査資料、地元関係者、専門家からの助言なども参考にしながら組み立てた。建設費は外構工事を含め、約7億6000万円(管理棟を除く)。
 開館予定日の23日は、現地で記念セレモニーを予定。入館料は個人300円、団体(10人以上)200円と設定したが、来年3月までは無料で見学できる。
 市建設業協会は5月25日(日)、奇跡の一本松ホールで復旧記念として市出身の演歌歌手・千昌夫さんによるショーを開催する。千さんのほか、市出身の俳優・村上弘明さんのミニトークショーなどを予定。入場無料。入場整理券の配布時期などは今後決める。
 市教委担当者は「完成まで時間を要し、資材の高騰などで設計・施工業者にもご苦労をおかけした。吉田家や歴史の研究者などから話を聞き、限られた資料から歴史のある文化財をよみがえらせるという大変さがあった。一般公開後はそうした復旧の過程も伝えたい」と見据える。