綾里の課題 市に直言 地域団体や生産事業者が合同で要望活動 実情に合った支援の重要性浮き彫り
令和7年4月19日付 1面

大船渡市大規模林野火災で甚大な影響を受けた三陸町綾里地区の地域団体や生産事業者が、市に対する復旧・復興支援の要望をまとめた。被災者の生活再建に関しては、生活支援金の増額に加え、現在建設が進む応急仮設住宅を払い下げするよう提案も。産業面の訴えでは、既存制度ではカバーできない分野の被害も明らかになる中、事業継続や雇用確保に向け、実情に合った支援の重要性が浮かび上がる。(佐藤 壮)
要望をまとめたのは、綾里地区まちづくり委員会(佐藤次夫委員長)と綾里地区漁業組合共同組合(和田豊太郎組合長)、元正榮北日本水産㈱(古川季宏社長)に加え、綾里で菌床シイタケ栽培を営む舘脇一人さん(56)。各団体の関係者や舘脇さん、綾里地区在住の伊藤力也市議会議長、西風雅史市議が17日に市役所を訪れ、渕上清市長に要望書を手渡した。
まちづくり委の要望では、消防・自衛隊の各関係機関による懸命の消火活動や避難所生活支援に対する感謝を示したうえで、「自宅の再建を考えたり、他地区に移住を考えたりと先の見えない状況に不安を感じている」とし、行政による〝心強い後押し〟の必要性を強調する。
住宅被災支援では、三陸町綾里にある野形市営住宅の浴室整備を要望。世帯員数で限定しない形での生活支援金や義援金配布の各充実に加え、被災跡地への公営住宅建設や応急仮設住宅の払い下げも掲げた。
山林被災者向けの支援として、森林再生に向けた伐採、搬出、処理、植林の各取り組み実施の早期提示のほか、作業道設置、土砂崩壊や流出を防止する治山事業の整備促進を訴える。中小事業者向けには、避難指示に伴う休業手当への支援も盛り込んだ。
綾里漁協は、倉庫の解体工事に合わせ、火の手が及んだ隣接斜面の補強工事を要望。個人所有倉庫などの全焼に伴い、漁業資材が焼失した漁業者への支援も訴え「特に、間もなく解禁となるウニ漁に必要な竿、鏡、マリンモーターなどへの支援を早急にお願いしたい」とアピールする。被災漁業者の漁具は、漁協の購買店舗を通じてまとめて発注することにしており、早急な対応の重要性にも理解を求めた。
被災者は現在、調達した漁具を保管する倉庫がないため、漁協では希望に応じてプレハブ倉庫やテントを整備したい考えを示す。倉庫やテントの仮置きに向け、早急ながれき撤去も掲げた。
陸上施設でアワビ養殖などを展開する北日本水産は現状について「甚大な被害で、事業継続が危機に瀕し、早急な復興支援が不可欠」と危機感を込めた。死滅したアワビや資材の廃棄、火災で焼失した配管設備修理に加え、従業員15人の雇用維持に向けた運転資金への特別支援を挙げる。
舘脇さんが営む菌床シイタケ栽培施設2棟と栽培用培地8000個は全焼被害に遭い、被害額は約6000万円に上る。自力での復旧に難しさを示す一方で、「再開させ、今後の事業継続に意欲を持っている」とし、全焼施設の災害廃棄物処理への支援を要望。さらに培地への復旧支援や、施設復旧では国県の復旧補助事業導入や市からの特別加算支援を求めた。
綾里地区は出火した2月26日から鎮圧宣言翌日の3月10日まで、地区全域に避難指示が出された。出席者からは「避難生活で一番足りなかったのは情報。確かなことだけでなく、現在活動している内容なども伝えてもらえれば安心できたのではないか」との声も出た。
地区内の住家被害は66棟、住家以外は106棟に上る。今後の火災予防に向け、消防関係者らの動員力がある「火災警報」を躊躇なく発令するよう求める意見も寄せられた。
要望内容の説明を受けた渕上市長は「いずれも、今後の綾里地区の根幹にかかわる課題ととらえている。住まいの確保を急ぐとともに、農林水産業の被害や避難指示による事業所の影響を早急に取りまとめ、支援策を整理し、実行に移すことが重要と考える。皆さんの意欲を失うことがないよう、スピーディーな支援を行いたい」と述べた。