「頑張る姿で古里に元気を」 大船渡市三陸町綾里出身の森下選手(花巻東3年) 大規模林野火災で実家被災 家族の支え受け甲子園目指す
令和7年4月24日付 7面

第72回春季東北地区高校野球県大会の各地区予選が26日(土)から始まる。大船渡市三陸町綾里出身で、花巻東の森下祐帆選手(3年)は、昨夏の全国選手権と今春のセンバツで2度の甲子園を経験し、最高学年となった本年度も全国舞台を目指して練習に打ち込む。古里で発生した大規模林野火災で実家が被災するなど、心に傷を負いながらも「自分が今できるのは、野球を頑張ること」と、自身のプレーで被災地に元気を届けようと気持ちを奮い立たせている。(菅野弘大)
綾里出身の森下選手は、地元の綾里はまっこスポ少、東朋中と野球を続け、県内屈指の強豪・花巻東に進学。寮生活を送りながら技術を磨き、昨年度は2年生ながらレギュラーに定着すると、遊撃手として8月の夏の甲子園に出場した。「初戦で敗れたが、小学生のころからの憧れの場所に立ち、その雰囲気に圧倒された。連れてきてくれた先輩たちへの感謝の思いでプレーした」と振り返る。
3年生が卒業し、代替わりしたチームは、東北地区の一般選考で春のセンバツ出場が決定。自身2度目の甲子園に向けて調整を進めていた矢先、地元で大規模な火災が発生した。
発生翌日の2月27日、父・航生さん(48)からの電話で地元の状況を知った。綾里港地域にある祖父母宅は火災で全壊し、中学卒業までを過ごした実家も半壊。センバツ開幕が間近に迫る中、「信じられなかった」と家族や古里への不安が募った。
その後、学校を訪れた航生さんから、こう声をかけられた。「心配かもしれないけど、気にするな」。その言葉に森下選手は「気持ちが楽になった」という。
花巻東OBで同志社大準硬式野球部に所属する兄・ 真凪人さん(20)とも電話で話した。「家のこれからのことは両親や祖父母に任せて、自分たちは野球に集中しよう」。家族の支えを受け、やるべきことを明確にした。
古里への思いも胸に臨んだセンバツでは、全試合に「7番・遊撃」で先発出場。1回戦の米子松蔭(鳥取県)戦では、家族らがスタンドから見守る中、鋭いスイングで適時打を含む5打数3安打の活躍を見せ、10―2の大勝に貢献した。「秋の大会から打撃面で課題が残っていたので、打撃でチームに貢献したかった」。得意の足を生かした盗塁や軽快な守備でもみせた。
2回戦の二松学舎大付(東京都)戦でも、四球から二盗を決めるなど持ち味を発揮し、チームは6―3で勝利。準々決勝は、前回王者の健大高崎(群馬県)に1―9で敗れ4強入りは逃したが、相手の強力な投手陣から安打を放つなど、最後まで粘り強く食らいついた。
大会後には、多くの友人からねぎらいや励ましのメッセージが届いた。準々決勝の試合は、森下選手の同級生らも所属する大船渡高校野球部のメンバーもスタンドから観戦していたといい、「うれしかった」と笑顔をこぼした。
花巻東の父母会長も務める航生さんは「火災はあったが、『地域のために』などと気負わず、チームの勝利のために頑張って、楽しんでプレーしてほしいとの思いで応援していた」と息子の勇姿を目に焼き付けた。
火災発生後、「まだ大船渡には帰っていない」という森下選手だが、家族から送られてくる写真や報道で被災地の状況を確認している。「家やその周りも焼けていて、思い出のある場所がこのようになってしまったことは本当に残念」と肩を落とす。
それでも「いつまでも引きずっていてはいけない」と気持ちを切り替え、大好きな野球と向き合う。「2年生の時から試合に出させてもらって、先輩たちのおかげで夏の甲子園も経験でき、感謝しかない。今年は自分たちの代。春のセンバツで悔しい思いもしたので、もう一度甲子園の舞台に戻って、日本一を取れるように頑張りたい」と決意を語り、「一番は自分が野球をしている姿を見てもらえることがうれしい。とにかく、一生懸命なプレーを届けたい」と、復興へと歩む古里に思いを寄せる。