あらゆる想定もとに備えを 元消防職員の千葉さんが起業へ 救命や災害対応について発信(別写真あり)

▲ 災害対応に関する事業を興すため独立した、元消防士の千葉さん

 大船渡市在住の救急救命士・千葉善博さん(50)が、32年間勤めた大船渡地区消防組合を退職し、夏に起業する。日本でも近年、自然災害が激甚化・頻発化し、過去には考えられなかったような被害が多発していることを受け、国内外で学んできたレスキューの技法を専門職らに指導したり、その地域で起こりうる災害への対応などについて啓発していく考え。(鈴木英里)

 

 千葉さんは平成5年入職。当時から「30年以内に70%の確率で大地震・大津波が起きる」と聞かされ「現役のうちに大災害に見舞われる可能性はかなり高い」と危機感は持っていたが、2年後に阪神・淡路大震災が起きたことで、さらにその思いを強めた。
 22年には、きたる災害に備えて幅広い知識・技術を身につけたいと、初めて渡米。23年にも、米・緊急事態管理庁(FEMA)が管理し、ハリケーンや大規模山林火災、ガス爆発、テロ攻撃などの被害を受けた地域で活動するUSARタスクフォース(消防職を中心とした救助・エンジニア隊員、医療・構造専門家等のボランティア隊員らによる救助隊)で訓練を受けるため、3月12日に成田をたつ予定だった。

 くしくもその前日に東日本大震災が発生。予期された災害を、予測以上の規模で目の当たりにした。行方不明者捜索のため応援に入った米、英、中国の救助隊と活動をともにしたこと、千葉さん自身も翌年、1年越しに再び受講した米国での訓練を経て、災害対応への意識がより強くなった。

大規模火災の被害を受けたロサンゼルスを視察した時の様子(千葉さん提供)

 その後も2回、米での訓練に参加。初級から応用・上級編まで3段階あるプログラムをすべて修了したのは、日本人では千葉さんを含め5人だけだ。また昨年は、英国でのボート救命訓練も受けた。水難事故に関するデータが広く蓄積・共有され、海や川における救助方法も常に更新されていく点など、学ぶべきこと、日本でも生かしたいと思うことが多かった。
 千葉さんは、海外の災害対応システムや技術を、日本の風土に適した形で提供しているNPO法人ジャパン・タスクフォースの一員でもあり、消防職員、消防団員ら防災関係者を対象に、災害対応や救命救助の講習を開くこともあった。これらの経験を踏まえ、徐々に次へのステップアップを考えるようになっていったという。
 今年1月には知人が多くいる米カリフォルニア州・ロサンゼルスで大規模火災が発生。「今後は日本でも山火事が増える可能性はある」と思った千葉さんは、3月末で消防署を退職したあと、現地を視察しようと決めていた。そして、またしてもそんなタイミングで大船渡の山林火災が起きた。
 「改めて、『今までは起きなかったから』ではなく『これから起こりうる災害は何か』と先を見通し、備える大切さを痛感した。大規模山林火災が起きた大船渡では今後、土砂崩れなどの危険性も高まる。水害も全国的に増えており、あらゆる可能性を否定せず想定しておく必要がある」と千葉さんは強調する。
 4月にロスで火災被害を受けた地域を見て回り、消防関係者から詳しい説明も受けた。広大なエリアでの山林火災が頻発する同州ならではの、消火活動に関する知見の積み重ね、防火衣や装備品の工夫など、日本ではまだ取り入れられていないような手法について教えられたという。
 千葉さんは今後、災害対応にまつわる事業を興し、防災関係者らへ最新知識と技術を発信していくとともに、一般の人にも備えに関する啓発を行っていきたいとする。「十数年の短いスパンで2度も大規模災害に遭った市町村は少ない。そんな大船渡から発信することには、強い説得力があると思う」と語る千葉さん。経験を地域の安全のために還元していくつもりだ。