■視点/陸前高田の三陸花火 消えた第10回大会㊤ 主催者の深刻な資金難

 4日に予定していた陸前高田市の三陸花火大会は、開催見送りとなった。主催する実行委(浅間勝洋委員長)は、主な理由に「資金不足」を挙げる。大会直前の突然の見送り決定は、市内宿泊施設をはじめ多方面に影響を及ぼし、地元事業者らによる関連イベントも中止となった。今回の事態を招いた資金繰りに窮する事情は、関係者の指摘からも浮かび上がる。令和2年に始まり、今回で記念すべき10回目を迎えるはずだった三陸花火。年2回催される同市の一大観光行事として浸透しつつあるが、イベントを継続し、発展させていくためにも、華やかな花火を見上げる前に、足元の課題を冷静に見つめる必要がある。(高橋 信)

 

 

 「10回目の頂点へ。」「過去最高の感動、特別な夜、至高の花火、圧巻のエンターテインメントをお届けします。どうぞご期待ください」──。
 市内各地に貼り出された今大会のチラシやポスターの広告文だ。実行委は今回、これまでの集大成的なイベントを目指してきたというが、その思いと真逆の結末を迎えた。
 開催に暗雲が立ち込めたのは、約2カ月前。実行委が今回から新たにタッグを組み、資金・運営両面で協力を受ける予定だった大手企業との連携が困難となり、開催費を別の手段で確保する必要に迫られた。実行委は資金調達に奔走したが、警備費や設備費を前払いする期限に間に合わず、イベント自体の見送りを決めた。
 大会まで2週間を切った4月23日午後6時30分ごろ、実行委はSNSなどで「無念の判断に至った」と発表し、地域に衝撃が走った。ぎりぎりまで開催の可能性を探ったため、発表のタイミングが大会直前までずれ込み、結果的に準備を整えていた市内事業者などに影響が出た。
 浅間委員長(44)は「楽しみにしていた方々がたくさんおり、関連イベントなどの準備に当たる地元の関係者もいた。そうした方々のことを思うと、申し訳ないという言葉では済まされない」と陳謝する。
 高田松原運動公園に設けた有料観覧会場のチケット購入者は、約1700組。代金は全額返済することとし、浅間委員長は「ご迷惑をおかけした。誠意をもって対応したい」と語る。

 

 

 「今般、運営上の問題から大会を見送るとの報告を受けた。市内外の多くの皆さま、関係者には多大なるご迷惑をおかけすることになり、大変遺憾に思っている」。実行委の発表後、佐々木拓市長は声明を発出した。
 共催者の市は、大会における役割を明確化するため、実行委と協定を交わしている。取り決め事項に基づき、市は毎回、高田松原運動公園や有料駐車場として使う市有地を実行委に無償で提供しているほか、警備、交通誘導などに当たる市職員を30人程度配置して運営を支援している。
 今回の開催見送りは、観光まちづくりを推進する市にとっても大きな痛手であり、まちのイメージダウンは免れない。「もっと実行委の運営状況をチェックできなかったのか」と市に対して厳しい目を向ける市民もいる。
 共に催す立場だった市は、見て見ぬふりをしてきたのか──。
 村上知幸商工交流部長は「(見て見ぬふりをしてきたということは)一切なく、実行委や大会運営会社とは綿密に連絡を取り、交通障害の対応や実行委への電話が通じにくくなるなど課題が出るたびに厳しく指導してきた。あくまで民間のイベントで、今回の中止の要因となった資金面の問題に、市は関与できない。側面支援をずっとしてきただけに『なぜこのタイミングで』という非常に残念な思いがある」と話す。
 市担当者が実行委から開催見送りの方針を知らされたのは、公表前日の4月22日のことで、庁内でも「青天の霹靂」だった。
 村上部長は「もっと早ければ対応を検討する猶予があった。楽しみにしていた市民、準備してきた市内事業者、市外から訪れるはずだった観光客のことを思うと、憤りとともに、やりきれなさを感じる」と表情を曇らせる。