守り抜いた伝統の神輿 三陸町綾里・天照御祖神社 〝避難〟から2カ月半ぶり格納(別写真あり)
令和7年5月6日付 3面

大船渡市三陸町綾里に鎮座する天照御祖神社(熊谷典昭宮司)で5日、2月19日の田浜下地内で発生した林野火災を受けて運び出された神輿を戻す作業が行われた。造営から130年を誇る白木造りの神輿を、大規模林野火災でも火の手を免れた社殿脇の倉庫に再び格納し、地域の安寧や復旧・復興への願いを込めた。
作業には、地域住民ら約20人が集まった。総代が所有する倉庫から神輿を運び、鳥居から社殿へと続く階段を上りながら慎重に運んだ。周辺に伸びる木々の幹は黒々と焦げており、総代や見守った地域住民は神輿や神社が守られたことなどに感謝を寄せた。引き続き、毎年開催している春の例祭が執り行われた。
同神社の神輿は、明治期の気仙を代表する大工棟梁の花輪喜久蔵が手がけ、明治28(1895)年に建造。ケヤキ材の白木造りは年を重ねるごとに尊厳を増し、祭りのたびに人々を魅了しては地域内外で「傑作」との評判が広がった。尖塔や燈籠、正面屋根などに工夫が凝らされているほか、堂部分の「かご彫り」の繊細さにも目を奪われる。
令和5年の式年大祭で勇壮な神輿渡御が繰り広げられた後、建造後初めての修繕作業に入った。昨年終了し、社殿脇の倉庫に格納されていた。
今年2月19日に発生した林野火災を受け、神社が鎮座する田浜地域に避難指示が出され、神輿は総代が所有する港や黒土田地内の倉庫に移された。同26日の大規模林野火災により、神社周囲の木々は激しく燃え、今も参道沿いに伸びるスギの大木は幹が黒く焦げて葉が茶色く枯れた一方、社殿や倉庫などの建物被害への甚大な被害は免れた。
熊谷宮司は「本来の場所に戻ってきて、ほっとしている。本当に地域の皆さんのおかげ」と感謝を込める。
同神社の入澤隆夫総代長は「火災は予想外のことだったが、神様や消防の方々の力により、周囲の木は燃えても神社や神輿は無事だった。この白木の神輿は文化財。今後も守っていかなければ」と話していた。