大船渡市大規模林野火災 鎮火1カ月 消えぬ課題 被災木の行方、漁具確保、土砂災害…
令和7年5月7日付 1面

大船渡市大規模林野火災の鎮火発表から、7日で1カ月となる。初夏に入り、山林では新緑の中で茶色く焼け焦げた一帯が目立つようになった。被災者への金銭支援や建設型の仮設住宅整備など〝次の住まい〟に向けた事業が進む一方、手つかずのまま残る被災木の行方や安全確保などにも関心が高まる。延焼面積は平成以降の林野火災では国内最大となる3370㌶に及んだだけに、影響は多方面に広がり、課題は尽きない。これまで以上に、スピード感のある復旧・復興策が求められる。(佐藤 壮)
大規模林野火災は、2月26日午後1時2分、赤崎町の合足漁港付近にいた人からの通報で覚知。避難指示は、同日から3月1日にかけて順次拡大し、対象は三陸町綾里の全域と赤崎町の蛸ノ浦地区、上三区地域に加え、三陸町越喜来の甫嶺地域にも及び、総計で市民の10%超に上る1896世帯4596人となった。罹災証明書などに基づく被災棟数は、住家87棟(全壊54棟)、住家以外135棟(同121棟)で計222棟となっている。
先月7日の鎮火発表後、消防庁と林野庁による「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方検討会」が2度開催された。局所的な強風の中で飛び火が綾里に及び、消防の覚知から2時間程度で延焼面積が600㌶に達し、多くの家屋が被災した流れが示された。
赤崎町合足の東側に位置する綾里の八ケ森で樹冠火に伴う大規模な延焼が発生。綾里の打越・小路間から八ケ森へと北東に伸びる沢沿いで強い燃焼があり、飛び火が広がったとされる。
上空から八ケ森を見下ろすと、本来は緑に覆われる一帯が今も茶黒く染まる。周囲は緑の濃さが増す中、被害の甚大さが浮かび上がる。
延焼を免れた建物では、住民生活や通常の活動が戻りつつあるが、そばに立つ被災木への懸念が強まっている。綾里の田浜地域に鎮座する天照御祖神社(熊谷典昭宮司)では、参道の階段沿いに伸びるスギの大木は幹が焼け焦げ、枝先は茶褐色の葉に覆われる。
同神社では5日、春の例祭が執り行われた。総代を務める地域住民からは「いつか倒れてしまうのではないか。それとも、まだ生きているのか。どうしたらいいか分からない」といった声が聞かれた。
火災被害や住家だけでなく農林漁業の広範囲に及び、既存支援策では行き届かない分野へのケアも急務。相談会場に訪れる住民の声からは、きめ細かい対策の重要性が浮かび上がる。

「大船渡よりそい・みらいネット」による相談窓口
大規模林野火災を受けて発足した「大船渡よりそい・みらいネット」(発起人・阿部知幸フードバンク岩手副理事長)は3月下旬から、住民相談窓口を開設。今月は、毎週金曜日午前10時~午後3時に、弁護士や災害・福祉関係のNPO職員らが市役所1階で応じる。
これまで、延べ23件の相談があり、約7割が住家被害を受けていない世帯だった。「家だけは残った」という漁業者の切実な思いも寄せられる。
なりわい再生に向け、倉庫などに入れていて被災した漁具を再び整備する資金確保への不安は尽きない。市に寄せられた義援金や生活再建支援金の送金が始まったが、いずれも住家被害世帯が主な対象となっている。
阿部さん(50)は「支援が見えてこなければ、だんだん気持ちが落ちてくる。若い人も相談に来る。もし、あきらめてしまえば、水産業をはじめ大船渡全体の損失につながる」と指摘する。平成28年に岩泉町で甚大な被害が出た台風10号豪雨災害時にも、同様の相談窓口が開設され、被災で職を失い、別の地域・業種に就職する難しさに直面したという。
義援金は寄せられた半分以上の配分がまだ決まっておらず、今月にも2回目の配分委員会が開催される。災害見舞金やふるさと納税を通じた支援金は、いずれも市の一般財源として独自策での活用が見込まれるが、具体的な方針はまだ見えてこない。
また、住家被災世帯からの相談では「山の木が無くなって土砂災害のリスクが高まっていないか」「土砂災害特別警戒区域に変更はないか」といった声が出ている。
できれば同じ場所に住み続けたいが、安全な場所であるのか──。再建・定住に向け、判断材料が足りない課題も見えてくる。
阿部さんは「各種支援申請の申込期間を定めるなど、今すぐにでも再建方法を決めるようなタイミングではない」と話す。窓口に来た住民の声を行政機関につなぎながら、被災者の不安解消を図っている。