ハイカーと「復興への道」 大船渡地域戦略がトレイル被災ルートで事業 復旧・保全にも携わる仕組み見据え
令和7年5月17日付 7面

地域DMO(観光地域づくり法人)の一般社団法人大船渡地域戦略(志田繕隆理事長)は本年度、大船渡市大規模林野火災で被災したみちのく潮風トレイルルートの復旧・復興過程を生かした取り組みを進める。林野火災を起点とした被災の現状を学び、長期的な保全に向け、ハイカーがメンテナンスにもかかわる意識を高める流れも描く。米国での林野火災など自然災害の復旧に携わった専門家との交流も見据える。(佐藤 壮)
みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市~福島県相馬市までの約1000㌔を結ぶ。このうち、大船渡市内は77㌔で、大規模林野火災で赤崎町~三陸町綾里の約20㌔で、トレイル沿いの木々にも延焼が及んだ。NPO法人みちのくトレイルクラブは現在、三陸鉄道盛駅~三陸駅の区間約40㌔はトレイル利用を控えるよう求め、三陸鉄道での移動を呼びかける。
綾里半島を巡る「綾里崎ルート」に加え、綾里の生活街道をたどり赤崎町方面に峠を抜ける「綾里峠ルート」は、被災前から人気のコースだった。風光明媚な景観に加え、綾里地区独特の地域文化や、地域の人々との交流も楽しめる場所として、両コースは外国人ハイカーに対応した旅行会社のツアーにも多く組み込まれていた。
再びトレイルを楽しむだけでなく、林野火災による爪痕や復旧の過程を目にし、さらに地元関係者・団体とも連携しながら、復旧活動にもかかわる流れを見据える。これにより、ハイカーも参画・協力したルート全体の保全につなげたい考え。人口減少が進み、関係人口の創出が叫ばれる中、各種団体と連携してトレイルルートを将来にわたり生かす流れを描く。
延焼被害を受けたルート復旧に関する取り組みでは、環境省や大船渡市、隣接自治体、みちのくトレイルクラブなどと連携。自然環境や風景、文化を守るよう「復興のストーリー」も重視する。綾里地区を中心とした復興ツアーの造成や、多くのハイカーが何度も巡り「復興にかかわった」という意識の醸成にも力を入れる。
地域戦略では「ハイカーも、トレイルの整備・管理にかかわる意識を持つことは重要。『自然の活用と保全は一セット』との考え方に基づき、地域に好循環をもたらす仕組みづくりや、ツアー収益の一部を保全に還元する取り組みも考えたい。メンテナンスの大切さを広く共有し、他のルートなどにも波及していけば」と今後を見据える。
アメリカで発生した林野火災やハリケーンをはじめ、自然災害からの復旧に関する経験を持つ海外専門家を招いた調査を実施し、被害の概要把握を見据える。一般ハイカーでも協力できる保全・復旧活動も探り、モニターツアーの造成を目指すほか、海外ハイカーの取り込みに向け、利用しやすいサービスのあり方を探る。
また、持続可能な受け入れ体制の構築も重視。ガイド、通訳、地域コーディネーター、飲食店、宿泊施設などを対象し、刈り払いなどメンテナンスに関する研修にも力を入れる。
一連の取り組みは、環境省による本年度の「国立公園における感動体験・アドベンチャートラベル創出事業」に選ばれ、財源を確保。滞在や高付加価値をもたらす観光の推進に向けた企画や試行、自走化の取り組みを支援するもので、本年度は37件の応募から13件が採択された。三陸復興国立公園内では地域戦略の事業が唯一選ばれた。
市内のトレイルルートでは本年度も、岩手開発産業㈱による地元密着型旅行サイト・三陸ツアーズの「おおふなトレイル」を実施。10コースに分け、月1回ペースで開催する。