田﨑さん(陸前高田)の作品が万博会場に 活躍続ける障害者アーティスト 大阪関西国際芸術祭に出展
令和7年5月23日付 7面

知的障害がある陸前高田市横田町の画家・田﨑飛鳥さん(43)の作品が原画となっている巨大壁面アートが、大阪市の大阪・関西万博会場内で催されている「Study:大阪関西国際芸術祭」で展示されている。国内外のアーティストによる13点の一つで、唯一無二の色使いで表現した巨大アートが万博会場で異彩を放つ。東日本大震災で心を痛め、一時、大好きな絵にも向き合えなかったが、両親の支えで創作を再開した田﨑さん。今は陸前高田市が推し進める共生のまちづくりの大使などとして目覚ましい活躍をみせており、地元内外のファンを喜ばせている。(高橋 信)

壁面アートの原画を眺める田﨑さん㊨と實さん
過去最多の158カ国・地域が参加し、4~10月の半年間の会期中に2820万人の来場が想定される大阪・関西万博。多くの人が行き交う大阪市・夢洲会場に今月上旬、縦8・3㍍、横12・8㍍の壁面アートが出現した。
国際芸術祭は、万博を主催する2025年日本国際博覧会協会のパブリックアートプロジェクトの一環。「障害×アート」を軸に事業展開する盛岡市の㈱ヘラルボニーが同芸術祭に参画したことで、同社契約作家である田﨑さんのアクリル画『森の道─青い森』をデザインした建築物の外壁が、作品の一つとして出展されることとなった。
寒色系の色で木々を描いた『森の道─青い森』。静かで落ち着いた雰囲気をまといながら、力強さが伝わってくるような作品に仕上がっている。田﨑さん作の『森の道─赤い森』とともに、JR釜石線、東北本線のラッピング列車にも採用された名作の一つだ。
田﨑さんの制作をサポートする父・實さん(78)は「万博に展示されるなんて思いもしなかった。ヘラルボニーの力が非常に大きく、大変感謝している。一人でも多くの人に見てもらいたい」と期待を込める。
生まれつき脳性まひで、知的障害がある田﨑さん。「感性に障害はない」として、彫金作家の實さんからの勧めで絵を描き始めた。
自然や動物を題材として好んで用い、障害のある人を対象とする美術公募展などで入賞する作品を生み続けた。
しかし、震災が起き、大好きだった自然が突然牙をむいた。約200点の絵画、画材一式は気仙町の自宅とともに流失。家族は無事だったが、慕っていた近所の人などを亡くした。がれきの山と化したまちにショックを受け、一時、絵から離れたが、實さんから「言葉にできない思いを絵であらわすのはどうか」と言われ、再び絵筆をとった。
「色が聴こえてくる」と話す田﨑さん。心のままに描いた作品は国内外で事業展開するヘラルボニーの力で岩手を飛び越え、県外からも注目を集めるようになった。文化勲章を受章した画家、故・平山郁夫画伯の作品集として30年以上刊行された更生保護カレンダーの令和7年版には、田﨑さんの6作品を採用。市内では中学生とのアートワークショップに取り組むなど活動の幅を広げている。
絵を描く時間は「大好きです」と語り、今後の創作にも意欲十分の田﨑さん。實さんは「飛鳥は絵を通じて社会とつながっている。『障害のことをまわりに知られたくない』ではなく、障害があっても一歩を踏み出す勇気さえあれば、可能性は広がっていくということを知っていただきたい」と願う。