気仙の宝 待望の復旧 旧吉田家住宅主屋が開館 東日本大震災で全壊 現当主 喜びひとしお(別写真あり)
令和7年5月24日付 1面

東日本大震災で全壊し、陸前高田市が復旧した県指定有形文化財「旧吉田家住宅主屋」は、23日に開館した。有志が津波で流出した部材を集め、専門家が知恵を絞り、気仙大工・左官の技能を駆使して、被災部材を生かして歴史的建造物をよみがえらせるという前例のないプロジェクトを完遂させた。市によるハード面の震災復旧事業は同主屋で完了。吉田家当主など関係者が集い、まちの新たな門出を祝った。(高橋 信)
市ハード事業ようやく完了
現地で行われた開館記念式典には、関係者約70人が出席。佐々木拓市長は式辞で「多くの人から理解と力添えを頂戴しながら、開館を迎えることができた。復旧を成し遂げた主屋から江戸時代の日常に思いをはせ、穏やかなぬくもりと風情を感じてもらいたい」と述べた。
吉田家第15代当主で、たかた歯科医院院長の吉田裕さん(68)=高田町=をはじめ、用地提供、資金助成、復旧指導者らへの感謝状贈呈のあと、鏡開きで開館を祝った。なかまち絆の会による虎舞披露、今泉地区コミュニティ推進協議会による餅つきも行われた。
吉田家は、江戸時代に仙台藩気仙郡(陸前高田市、住田町、大船渡市、釡石市唐丹)の24カ村を統治する「大肝入(地方役人における最上位の職)」を代々世襲した。
主屋は享和2(1802)年に建てられ、藩政期における気仙郡の政治拠点、または宿所として使用された。
地元では「大庄屋」として親しまれ、大事に保存されてきたが、震災で全壊。市建設業協会(畠山正彦代表理事)に復旧業務を委託し、今年3月に完成した。木造2階建てで延べ床面積は317・6平方㍍。総事業費は管理棟や外構工事などを含めて10億2100万円となった。
復旧の第一歩は、震災直後の混乱期に始まった部材の回収だった。吉田さんや大学、県立博物館の関係者、地元住民らが自主的に展開し、建物の約6割を集めた。
その一人、元県立博物館学芸員で、元高校教諭の佐々木勝宏さん(63)=盛岡市=は「文化財として非常に貴重な建物で、被災した部材を使って復旧させたというのは世界でここだけ。市には大事に管理してもらい、今後の活用も考えてほしい」と願う。
式典に臨んだ神奈川県大和市の古谷田力市長は、同市議時代にボランティアとして陸前高田に10回ほど通い、部材集めに注力した。「主屋が完成し、感動の一言だ。大和市からは小中学生や高校生が毎年陸前高田を訪れており、今後はこの主屋も訪問先に入れたいし、両市の交流をもっと促進させたい」と意欲を語った。
吉田さんは「私の代で大庄屋を失い、先祖に申し訳ない気持ちがあった。復元すると決めた行政、率先して部材集めに当たった大学などの関係者、棟りょう、地域の人たちなど、復旧に携わったすべての人に感謝の気持ちしかない。多くの人に見ていただきたい」と満面の笑みを浮かべた。
感謝状受領者次の通り。
▽用地提供=吉田裕、吉田吉子、菅野昌幸、及田富美子
▽資金助成=朝日新聞文化財団、文化財保護・芸術研究助成財団
▽復旧指導=高橋恒夫、月舘敏栄、窪寺茂、佐々木勝宏、板垣直行、中村琢巳
▽主屋・外構復旧、各種施工など=市建設業協会、藤原出穂、金野建設㈱、㈱吉田建設、㈱ディーワーク、㈲山辺構造設計事務所