今季操業へ確かな一歩 火災で焼失の綾里漁協定置 借り受けた網で来月復旧へ(別写真あり)
令和7年5月31日付 7面

大船渡市大規模林野火災で定置網や定置・作業保管施設が焼損する被害を受けた三陸町綾里の綾里漁業協同組合(和田豊太郎組合長)は、来月の操業開始を目指して復旧作業を進めている。同業者から借り受けた網で、まずは大入漁場の1カ統を復旧させる計画。定置網船が係留されている綾里漁港では、乗組員らが網の補修や漁に使うロープなど、資材の確認作業にあたっており、今季の操業と水産業の再建に向けて確かな一歩を踏み出した。(菅野弘大)
今回の大規模林野火災により、同漁協では同漁港内にある定置・作業保管施設と、施設内に保管されていた定置網漁具が焼損。定置網漁は12月で操業を終え、汚れや劣化などを防ぐため、施設に保管していたところ、施設裏の山から火の手が回ったとみられる。定置網は海の中で海藻などが付着するために定期的な清掃、修繕が必要で、漁期には2セットの網をおよそ1カ月ペースで入れ替えているが、火災で大入、願松両漁場2カ統分の合わせて4セットが被害を受けた。
14年前の東日本大震災で被災後、平成26年度末に再建された施設も焼け落ちたほか、網以外に保管されていた網の管理に使用する修復資材、フォークリフトなども燃えた。被害額は概算で10億円以上に上るとみられ、復旧・再建に向けた支援策の特例措置として、定置網の再導入に対する支援補助割合の引き上げなどが示されている。
同漁協では例年、養殖ワカメのシーズンが終わった5月の連休明けから網起こしを始めるが、新しい網の発注から納品まで約1年は待たなければならず、今季は借りた網で操業を行う方針を決定。乗組員の雇用は例年通りとし、今月11日に神事を行い、いつでも漁が開始できるように準備を進めてきた。
関係者の協力も得ながら漁場に合う規格の網を探していたところ、釜石市に本社を置く定置網漁業・生鮮水産物販売などを手がける㈲泉澤水産(泉澤宏社長)が無償での貸し出しに手を上げた。同社の網は大入漁場で活用するほか、野田村や岩泉町、北海道からも支援が届いているという。
今月24日に宮城県女川町からトラックで網を運び、26日から綾里漁港で補修作業を開始。乗組員約30人が力を合わせ、網やそれを支える「側」と呼ばれる型枠の調整などに汗を流した。
定置網漁の指揮を執る千田芳孝大謀(66)は2月26日の火災発生直後、定置網船を避難させるため同漁港にいた。「火の粉が飛んできてすごい状況だった。保管施設が燃えないか心配していたが、現実になってしまった」と振り返る。
それでも、操業開始のめどがついたことを「着実な前進」と捉える千田大謀。「一安心まではいかないが、まずは一歩進んだかなという感じ。漁の道具が全て燃えてしまい、新品を発注しても今季の漁には間に合わない状態で、操業するには網を借りるしか方法がなかった。支援をありがたく思う」と感謝を示し、「網が異なることで網起こしのやり方も探りながらだが、例年通り大漁して、けがのないよう水揚げができれば」と見据える。
綾里漁協ではこのほか、漁業者の漁具、倉庫の焼失を受けて延期していたウニ漁を6月から解禁する。今月27日から漁に使用する箱メガネやかご、さおなどの漁具の支給も行い、漁業をはじめとしたなりわいの再建が本格化している。