申請開始4カ月で採択15件に 森林病害虫被害木クリーン事業費補助金 所有者の倒木影響への懸念浮き彫り(別写真あり)
令和7年6月5日付 1面

松くい虫やナラ枯れの被害などによる倒木防止に向け、大船渡市が昨年度創設し、今年1月から申請を受け付けている「森林病害虫被害木クリーン事業費補助金」の採択実績が、今月2日までに15件に上ることが分かった。今月も、補助を生かした処理が進む中、被害木は住宅や道路沿いといった市街地や産業施設などのそばでも散見され、所有者らが懸念を抱いてきた現状が浮き彫りに。予算に上限はあるが、市は引き続き申請を受け付ける。(佐藤 壮)
この事業は伐倒や駆除費用の一部を助成し、市民生活の安全確保につなげるとともに、病害虫被害のまん延防止を図るもの。既存の国県補助事業の対象外地域である市街地等の被害木、枯死経過木は、倒木による人身被害等が懸念され、所有者からも対策を求める声が増えていた。市は森林環境譲与税を財源とし、事業を創設した。
対象は、市内に被害木や枯死経過木を所有する個人、団体。助成経費は▽松くい虫、ナラ枯れ被害木の伐倒くん蒸、破砕処理の経費▽松くい虫、ナラ枯れ被害による枯死経過木の伐倒、整理に要する経費──となる。
伐採などへの助成額は、経費の2分の1で、50万円が限度。昨年12月の市議会定例会で、関連事業費を盛り込んだ補正予算が議決されたのを受け、今年1月下旬から市農林課で申請を受け付けている。
同課によると、6年度中は6件を採択。2月から順次着手し、全て完了した。7年度はすでに9件を採択しており、各地で伐採・処分が進められている。市は本年度当初段階で予算400万円を確保。予算に達するまで申し込みを受け付ける。
末崎町の吉田力男さん(81)方では2日、海側の庭先に伸びる数十本のアカマツの伐採作業が行われた。明治20年ごろに、防風用として植えられたという。平成23年の東日本大震災後に松くい虫の被害が進んでいた中、補助を利用して伐採に踏み切った。
吉田さんは「倒れて浜に流れ、ワカメなどの養殖施設に迷惑をかけるようなことがあってはならない。せがれの代まで残す訳にはいかないと考えていた。以前から伐採を考えていたが予算を超える費用の見込みだったので、補助は助かった」と話す。
松くい虫やナラ枯れはいずれも、市内では被害確認から歳月が経過。手つかずのまま倒木の危険性が高まっている本数の増加が予想される。電線や家屋が近く特殊伐採を伴う場合もあり、業者に依頼すると高額の費用が見込まれ、対応に苦慮している所有者も見られる。
同課の佐藤雅基課長は「制度創設により、危険木で困っている方が多い現状を改めて実感した。撤去には少しでも協力したいと考えており、今後も引き続き活用してもらえれば」と語る。
申請時に必要な申請書や収支予算書などの様式をは、市ホームページからダウンロードできる。このほかに、実施区域が簡易的に分かる図面や位置図、経費に関する見積書(コピー)、内訳書、被害木の写真も必要。申請前に作業している場合は対象外となる。
市はこれまでも、国・県補助の森林環境保全事業として、松くい虫やナラ枯れの駆除を進めてきた。一方で、補助金ベースの駆除では抑制までには至らず、さらなる被害が広がっている。こうした中、市は令和8年度予算編成に向けた対国要望で、引き続き病害虫の防除等に対する予算確保を求める方針を掲げる。
海岸線など作業困難区域も多い中、特殊伐採作業に対する標準単価拡充を強調。倒木による人身被害や物損事故への懸念に加え、道路の通行不能や電線切断など市民生活に影響を及ぼす恐れがある枯死経過木を処理する事業創設も訴える。
森林病害虫クリーン事業に関する問い合わせは、同課(℡27・3111内線338)へ。