火災復興へ希望の水揚げ 綾里漁協の大入定置漁場 借り受けた網で今季初操業(動画、別写真あり)
令和7年6月18日付 1面

大船渡市三陸町綾里の綾里漁業協同組合(和田豊太郎組合長)は17日朝、綾里沖にある定置網漁場で今季初の網起こしを行った。2月に発生した大規模林野火災で定置網や定置・作業保管施設が焼損する被害を受けた中、同業者から網を借り受け、まずは大入漁場の1カ統を復旧。各地から水産業の再建を後押しする支援が寄せられ、現場では乗組員らが感謝の思いを胸に作業にあたった。東日本大震災など幾度の災害を乗り越えてきた定置漁業の再開は、火災からの本格的な復興へと突き進む被災地の希望となる。(菅野弘大)
午前4時30分ごろ、火災で被災した綾里漁港内の定置・作業保管施設前の岸壁に、定置網漁船の乗組員27人が参集。今季初の操業に向けて第十五大入丸、第三十一願松丸の2隻に分乗し、同漁協が経営する漁場の一つ、大入漁場に向けて出港した。
当初の初水揚げは16日を予定していたが、波が高く漁を断念。17日朝は濃い霧がかかっていたものの、漁場に到着するころには視界が開け、操業再開を歓迎するような青空が広がった。
網に近づき、2隻が平行となるように船を止め、潮の流れも考慮しながら慎重に網を狭めていくと、水しぶきをあげて魚が跳ね出し、乗組員らに笑顔が広がった。たも網ですくい上げて願松丸に積み込み、同6時30分ごろに大船渡町の市魚市場岸壁に接岸。水揚げ作業では、魚種の選別を行う乗組員や魚市場職員、魚を品定めする買い受け人らで活気に包まれた。
この日は、7~19㌔のメジマグロ248本を中心にタイ、ヒラメなどを水揚げ。数量はメジマグロだけで2㌧に達した。願松丸の古川祐介船長(40)は「初日としてはメジが多く入り、まずまずの漁況だと思う。新しい網での操業に早く慣れて、借りた網を壊さないように漁をしていきたい」と話した。
水揚げの様子を見守った大船渡魚市場㈱の千葉隆美社長は「まずは水揚げができて良かった。今後の豊漁を願うとともに、定置網全体の水揚げ増加につながれば」と期待を込めた。
同漁協では、今回の火災で定置・作業保管施設と、施設内に保管されていた大入、願松両漁場2カ統分の定置網漁具4セットが焼損。14年前の東日本大震災で被災後、平成26年度末に再建された施設も焼け、網以外に保管されていた網の管理に使用する修復資材、フォークリフトなども燃えた。被害額は概算で10億円以上に上るとみられ、復旧・再建に向けた国の支援策の特例措置として、定置網の再導入に対する支援補助割合の引き上げなどが示されている。
同漁協の定置網漁は例年、養殖ワカメのシーズンが終わった5月の連休明けから操業を始めるが、火災で網を失い、今季の漁は絶望的かと思われた。こうした中、釜石市に本社を置く定置網漁業・生鮮水産物販売などを手がける㈲泉澤水産(泉澤宏社長)が無償での貸し出しに応じ、5月下旬に引き渡しを受けた。以降、乗組員らが網の破れた箇所を補修したり、網に合わせた「側」と呼ばれる型枠などの調整作業にあたり、今月14日に大入漁場の網入れにこぎ着けた。
借り受けた網は、網を起こす方法が火災前と異なり、この道40年のベテラン乗組員も「このやり方での操業は人生で初めて」と語る。そこで、同じ方法で操業している気仙の定置網漁場なども参考としながら準備を進め、17日は乗組員同士が密に連携を取り合いながら作業に取り組んだ。
今回の火災で漁具や倉庫を失った漁業者も多く、ワカメやウニ漁、定置網など、地域を支える水産業も大きなダメージを受けた。それでも、地元内外から各種支援が届けられ、綾里では今月9日に今季ウニ漁が解禁となるなど、着実に復興の歩みが進められている。
定置網漁の指揮を執る千田芳孝大謀(66)は「漁ができて一安心。これから季節のサバやワラサがどんどん入ってきてくれればいい。火災はあったが、気負わず普段通りに漁をするだけだ」と気を引き締めた。