里帰り上映〟実現で感謝 フィリピンのパセナさん 陸前高田舞台の映画『この場所』(別写真あり)

▲ 高田第一中での上映後、作品にこめた思いを伝えるパセナさん(右から3人目)

 陸前高田市内で昨年に撮影が行われた長編映画作品『この場所─KonoBasho─』(85分)の上映会が20、21の両日、高田町内で開かれた。東日本大震災後の同市の復興と向き合い続けるフィリピンの映像作家、ハイメ・パセナ2世さん(44)が監督を務め、同国の独立系映画祭で複数のアワードを獲得した作品。初となる〝里帰り上映〟が実現し、現地へ足を運んだパセナさんらが市民らへ感謝の思いを伝えた。(阿部仁志)

 

 パセナさんは、大震災後の平成23年から三陸沿岸に足を運び、25年からは国内外の芸術科を招へいするプログラム「アーティスト・イン・レジデンス」の中で陸前高田での作品のテーマを模索。自身初となる長編映画のアイデアが膨らみ、『この場所』が生まれた。
 作品は、フィリピンの映画制作会社と日本のスタッフらによる「日比共同制作プロジェクト」の一環で制作。
 主人公のフィリピン人女性・エラと、エラの異母姉妹の日本人女子学生・レイナが、父の死をきっかけに出会い、震災後の陸前高田市を舞台に心を通わせていく──というストーリーで、同市の住民もエキストラに加えながら、各地で撮影を行った。
 昨年、独立系映画制作者を支援、表彰するフィリピンの「シネマラヤ映画祭」で公開され、最優秀監督賞など四つのアワードを受賞。パセナさんは「陸前高田の皆さんとの出会いから生まれた作品。ぜひ現地で上映したい」という強い思いで、陸前高田AIR実行委員会と連携して里帰り上映を実現させた。
 初日は、一般向けの上映会に先立ち、同市高田町の高田第一中学校(佐藤学校長、生徒155人)の体育館で、全校生徒向けに作品を披露。過去に創作プログラムで同校生徒と交流したことのあるパセナさんは、冒頭あいさつで「ここで上映できることがうれしい。作品を通じ、エラとレイナのような関係を持てる人、場所について考えてみてほしい」と呼びかけた。
 映像では、震災直後や復興していくまちの風景が随所にちりばめられ、架空の人物であるエラやレイナの過去と融合。文化や言語の異なる場所で生きてきた姉妹の葛藤、震災が人々にもたらした傷の深さを知り刻々と変化していくエラの心情などが描かれ、生徒は引き込まれるように見入っていた。
 終盤には、横田町金成地区の橋が登場。上映後、パセナさんは同地区が気仙川を逆流した津波の〝最終地点〟であることに触れ、作品の最後につなげたことなどを明かした。
 同町に住む菅野晴音さん(3年)は「横田小学校にあった仮設住宅や金成橋など、自分も知っているいろいろな風景が映像の中に出てきたのが印象的だった。震災はマイナスのイメージが強いけれど、この作品は震災をきっかけに出会いが生まれ、新しいスタートを切っているということなど、いろいろなことを考えた」と話していた。
 その後、市役所ではパセナさんやエラ役のフィリピン女優、ギャビー・パディラさん(31)ら関係者が佐々木拓市長を表敬訪問。佐々木市長は、撮影地である同市で上映会を開催できたことへの感謝を述べるパセナさんらに対し、「われわれにとっても〝陸前高田の映画〟であり、作っていただきありがたい」と返していた。
 同日夕、市コミュニティホールで開かれた一般向け上映会では130人が鑑賞。撮影に関わった市民や市内に暮らす外国人の姿も見られ、作品の奥深さを味わったほか、エンディング曲を提供した地元ミュージシャン・まっとさんによる特別ライブも楽しんだ。
 一般向け上映会は21日も同ホールで開催。気仙町出身の写真家・畠山直哉さんによるトークイベントや交流会も行われた。
 パセナさんは「映画祭で賞をとったことよりも、陸前高田で上映できるこの2日間が特別で、緊張した。より多くの人に『この場所』を見てもらいたい。また、この地を舞台にした次の作品を作ってみたい」と思いを寄せていた。