住民避難「今後の好事例」 大規模林野火災踏まえた検討会 大船渡市での対応評価 東京都で

 消防庁と林野庁による「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」が20日、東京都内で開かれ、同市における大規模林野火災直後の住民避難が議題となった。現場の消防団員から送られた映像・画像を生かした避難判断や、周知時の強いメッセージ、住民向けのバス運行などに対し、消防庁や検討会委員はスムーズな行動につながったとして「今後の好事例」ととらえる。気象庁からは、顕著な少雨時における火の取り扱いに関する注意喚起案も示された。(佐藤 壮)

 

消防団員からの画像で迅速判断
住民向けに強いメッセージ発信

 

 検討会は、日本防火技術者協会理事長の関澤愛氏が座長を務め、委員は大船渡市消防団の大田昌広団長や県女性消防連絡協議会の佐藤菊子副会長、県森林組合連合会の澤口良喜代表理事専務のほか、学識経験者らで構成。気象庁や防衛省がオブザーバーに入る。
 先月19日以来4回目の開催で、各委員らが出席。会議は非公開で行われ、終了後に関澤座長や消防庁、林野庁の関係者が説明した。
 今会議で初めて議題となった住民避難に関しては、消防庁が市に対する調査や聞き取りからまとめた避難指示の発令状況などが示された。消防庁側は「住民がしっかり避難したことをまとめることが重要との視点から取り上げた」とする。
 会議で示された避難指示の発生状況は別掲の通り。当時、避難指示の判断・周知対応は、主に市役所本庁内で行われ、現場の消防団員からSNSで市職員に送られてきた映像・画像を避難の判断材料として生かした。消防庁では、緊迫感を持った形で指示を出し続けた対応を評価する。
 津波などを含めた避難に対する住民意識の高さに加え、対象地域では市バスの運行・巡回も行ったことにも注目。委員からは「避難指示で『ただちに身の安全を確保してください』と呼びかけた。風水害で言うと、レベル5に該当する強いニュアンスの呼びかけ。林野火災における住民避難では重要」といったコメントが寄せられた。
 関澤座長も「現状では、林野火災からの避難で具体的なイメージがすぐに浮かばない中、今後の参考になる事例だと思う。それぞれ規模は違うが、韓国やロサンゼルスの山火事では30人ほどが亡くなっている。林野火災でそういった犠牲者が出るケースを考えれば、大船渡の場合は非常にスムーズに避難行動ができたと理解している」と話す。
 また、住民への聞き取りでは「防災行政無線だけでなく、地区有線放送で呼びかけがあり、より『わが事感』を感じて避難した」「自主防災組織が、1人暮らしの高齢者らに電話で直接避難準備を促したことで、スムーズな避難につながった」との声があったという。出火直後には、地元消防団員による声がけ・誘導で避難した姿も見られた。
 コミュニティーを生かした避難の重要性が浮かび上がる一方、委員からは「外国人をはじめコミュニティーの〝外〟にいる層の呼びかけも大事」との指摘も。初期段階から防災行政無線だけでなく、緊急速報メールなどを活用するといった改善点・反省点も共有した。
 同日の検討会では、気象庁から、顕著な少雨が観測された場合は、過去に大規模な林野火災が多く発生しているとして、臨時記者会見や気象情報などによる注意喚起案が示された。
 予防・警報に関する取り組みの方向性をまとめた消防庁の配布資料によると、大船渡市における合計降水量は、大規模林野火災発生前30日間が3・5㍉、60日間は23㍉、90日間は38㍉。それぞれ平年の8%、23%、24%にとどまり、過去20年間で100㌶以上の焼損面積となった林野火災発生地の中でも2~3番目に低かった。
 今回も、大規模林野火災の原因に関する説明や公表はなかったという。次回は7月に開催。月1回ペースで会議を続け、今後取り組むべき火災予防や消防活動、消防体制充実強化など夏の取りまとめを目指す。