「一人一人の行動」鍵に 市津波避難対策検討会議が報告書 震災14年4カ月 犠牲者ゼロの指針となるか
令和7年7月11日付 1面

東日本大震災の発災から、きょうで14年4カ月を迎える。大船渡市津波避難対策検討会議が約1年をかけてまとめ、今月市に提出した報告書では、改めて震災をはじめこれまでの災害を教訓とした新たな取り組みを進める重要性が浮かび上がる。一方、住民らの関心が高い自動車避難は、特に中心市街地では難しい現実も。報告書を生かして「犠牲者ゼロ」を目指す今後の実践では、住民一人一人の実情に合った行動・対策をどう明確化し、個人や事業所単位での避難意識を高めるかが問われる。(佐藤 壮)
自動車避難に難しさも
対策検討会議は、学識経験者や市内各種団体の関係者ら17人で構成。昨年7月に1回目、今年1月に2回目、今月4日に3回目の会議を開催し、同日、報告書を市に提出した。
県は令和4年、最大クラスの津波浸水想定を発表。さらに、同年公表の「岩手県地震・津波被害想定調査報告書」では、大船渡市内で最大400人の犠牲者が出るとされたが、避難の迅速化等で犠牲者ゼロが可能としている。
警報時、市内の避難対象住民は人口の約2割に相当する。一方、浸水想定域には事業所や宿泊施設もあり、観光客をはじめ住民以外の迅速な避難行動も求められる。
報告書によると、自動車避難のあり方については「徒歩避難の原則を変更しない」と明記。一方、徒歩での避難が困難な地域住民や事業従事者には、自動車による避難を容認する必要性も掲げた。
地域住民向けには、避難時に自動車を使わざるを得ない例として、避難行動要支援者や、徒歩避難が困難な人を挙げる。避難可能地域は「幹線道路(国道、県道)と平面交差(横断)しないで、津波浸水想定区域外に避難できる道路が確保されている地域。ただし、幹線道路の交通量が少なく、容易に横断できる地域は除く」とし、徒歩避難者の避難を妨げない道路幅や地域内に駐車場スペースを確保できる地域に限定する。
第1回の会議で「盛町から大船渡町では、国道45号で浸水区域からの避難経路が分断されるため、迅速な避難が課題」との意見が出ていた。両町は交通量が多く、さらに報告書で示された避難可能地域は少ない。
これについて、会議の委員長を務める杉安和也県立大学防災復興支援センター副センター長は「垂直避難が車でやりやすい土地かというと、必ずしもそうではない。将来的なまちづくりで、自動車でなければ避難が難しい人を支える方針づくりに向け、参考になる可能性もある」と話す。
特に交通量が多い地域では、これまでと同様に「原則徒歩避難」の重要性が浮かび上がる。市防災管理室では「浸水エリアに暮らしている災害時の要援護者は約400人。その方々の安全確保が第一となるが、登録していない人でも歩くのは不自由な方もいる。幹線道路があるところは厳しい。高いところにまず逃げるような取り組みが必要」との認識を示す。
国道45号を地域住民らが安全に横断できるためには何をすべきか──。14年前も信号が停電で稼働しない中で車両渋滞が発生し、大船渡町では津波が国道45号を越えて山側に押し寄せた。
報告書では、津波警報発表時に国道45号のうち盛町や大船渡町などの区間が通行止めになることの周知を明記。交通量を抑えることで、横断して山側に逃げる人たちのスムーズな移動を見据える。
さらに、津波警報発表時に、浸水域に構える事業者の従業員らが率先して避難するとともに、避難時に周囲の住民や観光客らに避難の呼びかけを行う事業所の登録事業創設を検討する方向性も盛り込んだ。観光客をはじめ、地理に詳しくない人々への誘導には標識設置の充実に加え、事業者や住民による「声がけ」を求めている。
報告書を通じて、避難対策を市としてとらえるのではなく、地域や事業所、さらには個々の世帯など、それぞれの実情に合わせた避難行動を定める重要性が浮かび上がる。
市長への報告書提出を終えた岡安委員長は、記者団に対して何度も「一人一人の命を守る」という表現を繰り返した。津波に対する「犠牲者ゼロ」の理念を市全体に浸透させながら、具体的な対策・実践につなげる取り組みが重要となる。