幻の貝 本年度分出荷 広田湾産イシカゲ貝 9・8㌧を計画 高水温で数量大幅減も 市場「実入りは抜群」
令和7年7月25日付 7面

陸前高田市の特産「広田湾産イシカゲ貝(エゾイシカゲガイ)」の今季出荷は、今月から行われている。近年、海水温の上昇を背景に減産に陥っており、広田湾漁協(砂田光保組合長)によると、本年度の水揚げ量は、大幅に落ち込んだ昨年度をさらに下回る9・8㌧を見込み、過去最多となった4年度の11・6%にとどまる。一方で、東京・豊洲市場からは「今シーズンの実入りは抜群」との評価を受け、同市のみで養殖されている〝幻の貝〟への引き合いは依然として強く、生産者は需要に応えようと浜で懸命に出荷作業に当たっている。(高橋 信)
24日の気仙町要谷漁港。生産者でつくる広田湾産イシカゲ貝生産組合の熊谷信弘組合長(69)は翌日の出荷分を水揚げし、海水できれいに洗ったあと、規定量ごとにネットに入れた。
本年度の出荷は今月中旬にスタート。数量が限られるため、出荷ペースを例年の半分ほどの週3日に減らした。豊洲市場をメインに8月中旬まで送り出す。
熊谷組合長は「非常に厳しい状況だが、事実として受け止めるほかない。それでも市場などからは高い評価をいただいているのは、ありがたいこと。なんとかその期待に応えていきたい」と話した。
高級二枚貝として料亭やすし店などで扱われる広田湾産イシカゲ貝。陸前高田市では平成8年に全国で初めて養殖の事業化を実現。東日本大震災の津波で養殖施設が壊滅し、生産者による地道な稚貝の採捕、施設の復旧を経て、26年に出荷再開にこぎ着けた。
広田湾漁協は、市などと連携しながらブランド化を推進。令和4年2月には、唯一無二の希少さと生産者の品質向上への努力が認められ、地域ブランドを知的財産として保護する国の「地理的表示(GI)保護制度」に産品登録された。
水揚げ量は2年度約32㌧、3年度約62・5㌧、4年度約84㌧と右肩上がりで、豊洲市場を中心に、関西や中部、東北の地方卸売市場にも出荷。市が目標に掲げる年間収量100㌧突破への期待が高まっていた。
しかし、この数年は生産に急ブレーキがかかっている。
イシカゲ貝は高水温の影響を受けやすいとされ、生産者が各自確保している天然稚貝の数が例年より大幅に減り、その限られた稚貝を海中で大切に育ててきたが、夏場の高水温に耐えられず、へい死が相次いだ。結果、5年度は約58・6㌧、6年度は約16・1㌧と年を追うごとに減産した。
本年度の目標数量は約9・8㌧と前年度比で6・3㌧減り、来年度も減産の見通し。
一方で、採捕している稚貝はこの数年で最多といい、この稚貝が出荷サイズに育つまでに経る今年と来年夏の高水温を乗り切ることができれば増産にシフトできそうだ。生産者はリスク分散のため、イシカゲ貝の養殖施設を活用してアサリ養殖も試みている。
広田湾漁協気仙支所の合口潤主任(41)は「海水温上昇というどうしようもできない状況下で、生産者は本当に頑張っている。だからこそ市場とつなぐ役割をしっかり務めたい」と気を引き締める。
熊谷組合長は「稚貝の確保具合やへい死の状況で、年ごとの出荷量はある程度見通すことができ、今年、来年が厳しいのは覚悟している。その先の出荷分となる稚貝は今のところ順調に確保できており、明るい兆しがないわけではない。夏場も無事に育つことを願いながら仕事に当たるしかない」と前を向く。