津波注意報32時間で解除 気仙 カムチャツカ地震(別写真あり) 海上養殖施設への被害懸念
令和7年8月1日付 1面

7月30日にロシアのカムチャツカ半島付近で発生した巨大地震に伴い本県沿岸などに出された津波注意報は、31日午後4時30分に解除された。長時間にわたる注意報に気仙では警戒が続き、住民生活や産業など多方面に影響を及ぼした。今後、調査が本格化していく海上の養殖施設への被害も懸念される状況となっている。31日午後5時現在、津波にかかる人的被害は確認されていない。(3面に関連記事)
この地震は、30日午前8時25分頃、ロシア・カムチャツカ半島付近で発生。地震の規模を示すマグニチュード(M)は8・7。気象庁は同8時37分、北海道から九州地方の一部を除く太平洋沿岸に津波注意報を発表した。
同9時40分には、北海道東部から和歌山県までの沿岸に津波警報を発令。大船渡では同10時48分に津波の第一波を、午後6時には最大波40㌢を観測した。最大波が最も高かったのは、同1時52分に記録した久慈の1・3㍍だった。津波警報は同8時45分、注意報に切り替わった。
一夜明けた31日は、午前10時46分に一部地域を除く千葉県内房地域から九州地方、午後4時30分に本県を含む全地域の津波注意報が解除された。同庁では、若干の海面変動が続き、満潮と重なると潮位が上昇するおそれがあることから、海での作業や海水浴、磯釣りを行う際には安全に留意するよう呼びかけている。
避難の状況
大船渡市では津波警報発令中の30日午後7時時点で、13カ所に開設した避難所に加え、第一中学校と東朋中学校などに計382人、車両90台が避難。
このうち、盛町のリアスホールには116人が身を寄せた。館内では、市内の社会福祉法人が届けたおにぎりなどを配布。全館で空調が効いている中、気温が下がった夜には市の担当者が毛布を配る姿も見られた。午後8時45分に津波注意報に切り替わると、避難者は大幅に減少。31日午前7時の段階で3人となった。
大船渡町在住の80代女性は「すぐには行動できないので、離れる場所に住んでいる親族に心配をかけないためにも避難した。エアコンがあって過ごしやすかった」と話した。
30日午後7時時点で、大船渡一中には135人、東朋中には73人がおり、いずれも部活動などで登校していた生徒が中心。市教委によると、マニュアルに基づき警報中は保護者に引き渡さない対応が取られた。注意報となって順次帰宅し、夜を明かした生徒はいなかったという。
冷房施設のない避難所では、暑さ対策として飲料水などを提供。各避難所では、保健師による避難者の健康調査が行われたが、体調不良者はいなかった。
陸前高田市では17カ所に避難所が開設され、最大で757人が避難。30日は夕方から夜にかけて200~300人程度がとどまっていたが、午後8時45分に津波警報から注意報に切り替わり、避難指示対象エリアが防潮堤の海側のみに限定されると、避難者数は数人に減った。
30日は、部活動練習などで高田第一中に111人、高田東中に31人の生徒がおり、いずれも警報が発表されている間、学校に待機していたが、注意報に切り替わったあと帰宅した。
大船渡地区消防組合消防本部や陸前高田市消防本部によると、気仙3市町の避難所で熱中症とみられる症状による救急搬送はなかった。
産業面への影響
大船渡湾内の湾口防波堤付近の末崎町側では、養殖延縄施設が津波の影響を受けたとみられる。大船渡町の高台から目視で確認した同市漁協関係者によると、31日朝の段階で、カキやホタテ、ホヤを垂下している養殖ロープが、通常は等間隔で一直線に張っているところ、S字に曲がっている様子が見られたといい「被害はあるだろう」とする。
被害があったとみられる片頭漁場は、約3年半前、トンガ近海で発生した海底火山の噴火に伴う津波でロープが切れたり、ロープを張るためのアンカーブロック(3㌧)もろとも流されるなどの影響を受けた場所。漁協関係者は、津波が湾口防波堤に到達した際に発生する〝うず〟が大きな原因とみている。
今後は、現場の被害を直接確認し、各養殖組合などによる共同作業で復旧にあたる見込み。漁場を管理、運営する市漁協の亘理榮好組合長は「大規模林野火災の影響もあった中、カキ養殖が始まり、ウニ漁も好調だった。漁業者は海での仕事で食べている。被害が大きくないことを祈る」と話した。
陸前高田市の広田湾漁協職員は31日午前の段階で、「遠方からの目視しかできず、なんとも言えない状況。被害が最小限に抑えられることを願うばかりだ」と語った。
主に水産物の運送を担う大船渡市の㈲大船渡総合運輸では、30日に東京・豊洲市場などへ運ぶ予定だった鮮魚・貝類が出荷できなかった。31日は一部を出荷した一方、水門や陸こうが閉鎖したために、長時間漁港内から動けずにいたトラックも。東秀治営業課長は「生ものなので時間との戦い。一刻も早く解除になってくれれば」と気をもんでいた。
大船渡町の国道45号加茂交差点近くに構える丸新石油では、警報発令後に一時店舗を閉め、従業員を帰宅させた。新沼丞店主も避難準備しながら給油に対応。31日は通常通り営業した。新沼店主は「注意報発令直後は混み合い、震災の時を思い出した」と語った。
各地の海水浴場は前日に続いて31日も閉鎖。陸前高田市の高田松原海水浴場に出店予定だったキッチンカーの従業員は「局所的な地域でなく三陸全体の海が閉鎖となっている。痛手だが、安全のためにはやむを得ない」と話す。
公共施設など
大船渡市内の公共施設は31日も多くで閉鎖措置がとられ、ごみ収集にも影響が及んだ。
三陸町内の国保診療所は休診し、患者輸送車も運休。市内全域のスポーツ施設や盛町のカメリアホール、シーパル大船渡、大船渡町のおおふなぽーと、末崎町の世界の椿館・碁石、市立博物館、三陸町越喜来の三陸公民館はいずれも閉鎖、臨時休館となった。
一方、30日は業務を見合わせた越喜来の三陸支所と、綾里と吉浜の両地域振興出張所は31日に再開した。
避難指示対象の盛、大船渡、末崎、赤崎、三陸各町では、ごみ収集を停止。振り替え日は設けない。8月1日は、猪川町のクリーンセンターへの持ち込み対応は予定通り行う。市内全域で、し尿のくみ取りも行われなかった。
陸前高田市内の公共施設は30日、臨時休館となった。31日は市立図書館、市立博物館、奇跡の一本松ホールなどが昼過ぎに開館した。家族3人で博物館を訪れた清水玲維さん(小友小1年)は「きょうは休みかもと思っていたので、入れてうれしかった。また見に来たい」と話していた。
このほか、大船渡市大規模林野火災の復興支援活動として予定されていた子ども向け行事など、児童・生徒の夏休みに合わせたイベントが複数見送られた。
道路・交通
国道45号は30日午後0時45分以降、陸前高田市気仙町―米崎町(延長11・3㌔)、大船渡市の大船渡町―盛町(同5・8㌔)、三陸町吉浜―釜石市唐丹町(同2・2㌔)で全面通行止めの措置がとられたが、いずれも同10時10分に解除された。
31日の公共交通機関は、三陸鉄道リアス線の盛―宮古間が注意報や避難指示の解除を受け、安全確認後に運行を再開。県交通バスは通常運行。JR大船渡線BRTは終日運休として専用道の安全確認を行い、1日の始発便から再開する。