キャッセンで醸造所開業へ 地域にクラフトビール文化を 三陸ブルーイング・カンパニー
令和7年8月16日付 7面

三陸沿岸の原料を使ったクラフトビール「三陸ビール」の製造・販売などを手がける「三陸ブルーイング・カンパニー合同会社」(本社・大船渡市、南忠佑代表)は本年度、大船渡町の商業施設「キャッセン大船渡」内に醸造所を開業する。11月ごろに飲食スペースを先行オープンさせ、来春からの自社醸造開始を見込む。「世界に通用するビールを作れたら」と話す南代表(48)。大船渡でクラフトビール文化を醸成していく。(清水辰彦)

クラフトビール文化醸成を目指す南さん
趣味で醸造所に通って勉強を重ねていた南代表。妻・佳代子さんが大船渡町出身という縁で頻繁に気仙に通う中、ビールの副原料として魅力的なものが数多くあることに気づき、平成30年に同社を設立。委託醸造で三陸の素材を使ったビールの製造を行い、三陸沿岸を中心に盛岡市や仙台市、首都圏へ販路を広げてきた。
会社設立当初から、「いつか大船渡市内に醸造所を」という思いを持っており、各地で物件を探す中、キャッセン内に構えていた衣料品店が今年2月に閉店したことを受け、出店を決意した。
45坪のテナントの大部分が「製造工場」となり、5分の1ほどのスペースにタップルーム(飲食スペース)を設ける。
現在の委託醸造は年間製造量が3万㍑ほどだが、醸造所オープン後は10万㍑の製造を目指す。現在、メインで販売しているのは、気仙のツバキを使った「週末のうみねこ」、陸前高田市の北限のゆずを原料に加えた「恋するセゾン」、宮城県登米産のブランド米を用いた「伊達男IPA」の3種類で、将来的にはラインナップ増加、地元限定ビールの開発も視野に入れる。
「タップルーム」では新鮮なビールの提供をはじめ、音楽イベントやワークショップなども実施予定。地元住民が集い、語らい、楽しめる「地域の新たな拠点」を目指し、地域との結びつきも強めていく考え。
加えて、キャッセン周辺は、みちのく潮風トレイルのルートにもなっていることから、国内外から訪れるハイカーにも三陸ビールを楽しんでほしいという思いも持つ。
南代表が初めて三陸ビールを提供したのは、平成30年11月にキャッセンエリア内で開かれた飲み歩きイベントだった。7年越しの夢がかない、「出発の地で開業できるのがうれしいし、ワクワクする」と目を輝かせる。
同社では大船渡市大規模林野火災発生後、地元団体への寄付や商品のチャリティー販売を通じ、地域貢献にも積極的に取り組んできた。今後は、醸造、飲食部門で地元人材を雇用するなどし、「地元に根ざしたブルワリー」として新たなステージへと歩き出す。
「自然が豊かな場所には、おいしいビールがあるべき」と語る南代表。地元で三陸ビールを飲んでもらえるようになればありがたい」と話している。