真の復興へ「選択」の時期  大規模林野火災6カ月 多様な分野に課題山積 住宅再建、森林復旧、なりわい再生…

▲ 大規模林野火災から半年を迎えた三陸町綾里地区。住宅地、山林、産業活動それぞれで将来に向けて課題を抱える

 大船渡市大規模林野火災の発生から、26日で半年を迎える。鎮圧の見通しが立たぬまま避難が続いた時期に比べれば、復旧へと向かっている。しかし、復興に向けて道筋が整った訳ではない。想像を絶する爪痕が随所に残され、住宅地のそばにも残り続ける黒く焦げた木々が、山積する課題を象徴している。住宅再建や、森林の早期復旧に関しては、来月以降、具体的な取り組みに向けた意向確認や説明会が設けられる。なりわい再生も〝待ったなし〟の状況。真の復興に向け、被災地は「選択」の時期を迎える。(佐藤 壮)


 ■住宅再建/火災前の地に戻るか揺れる胸中

 

 住宅再建は「これまで暮らしていた場所に戻る」を軸とした選択となるが、被災世帯それぞれの事情や、火災前からの課題を踏まえ、不安や悩みは多岐にわたる。7月下旬~8月上旬にかけて開催された住宅再建支援制度説明会では、その一端が浮き彫りになった。
 個別相談では、資金確保に加え、土石流や急傾斜地崩壊の恐れがある土砂災害警戒区域、同特別警戒区域に住宅を建設する際の条件を確認する世帯が目立った。特別警戒区域では、自らで安全対策を講じなければならない。参加者からは「同じ場所に建てられるのか。建てられるとしても今後の災害への不安を考えれば悩む」といった本音が漏れた。
 区域かどうかにかかわらず、1人暮らしを理由に親族の居住地に近い他地区を選ぶ意向も聞かれた。さらに「隣近所が、再建しないと聞いている。私たちもどうするか」といった声も漏れた。市は9月をめどに再建に関する意向調査を行い、結果は各種支援に必要な予算確保などに生かす。
 市内では火災前から、人口減少が大きな課題。さらに地区ごとのコミュニティー機能充実にも力を入れている中、将来を見据えたまちづくりの観点でも、知恵と工夫が求められる。

 

 ■森林の早期復旧/限られた年度で〝絞り込み〟鍵に

 今月21日、市当局は市議会大規模林野火災特別委員会の場で、各種事業の実施状況と、今後の展開に関する資料を示した。森林災害復旧事業は、政府から激甚災害として指定された2月19日の火災分も含む3694㌶を対象に行う。同事業は令和10年度までとなっているが、市は11年度以降も実施できるよう国に対して要望を続ける。
 事業の長期化や膨大な業務量に加え、事業費は1割負担であっても市の財政負担が予想される中、市は被害程度が甚大で、保全対象内の面的な整備ができる森林に絞り込み、所有者意向を確認しながら進める方針。地域説明会は9月12日(金)に蛸ノ浦漁村厚生施設で、同16日(火)には綾姫ホールでそれぞれ午後7時から開催される。
 土砂災害をはじめ2次被害防止の観点から優先度を見極めなければならない一方で、所有者からは、立木の乾燥が進む前に材としての利用を見据えて早期の伐採意向も聞かれる。数十年単位での長期的な視点が求められる中、再び森林として再生する流れを市や所有者、地域全体で共有する重要性も浮かび上がる。
 山林も火災発生前から、管理の難しさや担い手不足が指摘されてきた。また、全国的には「カーボンクレジット」をはじめ、温室効果ガスの二酸化炭素を吸収する森林機能が注目されている。地元内外の事業者と連携を強めながら膨大な事業に立ち向かう仕組みづくりにも関心が集まる。

 

 ■なりわい再生/自己負担分への支援策はいかに
 

 市は水産業、農業等の損傷した施設・機械等の復旧支援について「作付け、養生、収穫、加工といった作業の時期が決まっており、年間の生産サイクルに遅れが出ないよう実施する」としている。
 国や県と連動しながら、農林水産業の被災した設備などに対し「3分の2」「4分の3」といった補助率で各種メニューを組んだ。復旧事業は本年度末までとしているが、復旧の状況や支援の妥当性を踏まえ、必要に応じて来年度までの延長も検討する。
 森林復旧に向けて、市は1割負担でも財政面の厳しさを挙げる。なりわい再生においても、事業者や産業団体に対して補助制度は設けられているが、自己負担分は決して小さいものではない。事業者が再建意欲を失わないように、実情に合った支援を講じられるかが重要となる。



 大規模林野火災の消防覚知時刻は、2月26日午後1時2分。消防庁による調査では、正確な原因特定には至らなかったが、降水量が少なく林野内の可燃物が乾燥していた状況下で、赤崎町・合足漁港付近の火点から局地的な強風やリアス海岸の複雑な地形も影響して延焼が広がった。
 避難指示は、三陸町綾里の全域と赤崎町の蛸ノ浦地区、中赤崎地域に加え、三陸町越喜来の甫嶺地域にも及び、1896世帯4596人に出された。各地の公共施設に避難所が設けられ、ピークとなった3月6日には1249人が利用。親戚宅の滞在も目立った。
 延焼範囲は市内面積の10%超にあたる3370㌶と、平成以降で国内最大規模の災害となった。建物被害は226棟(全壊175棟)で、このうち住家90棟(同54棟)、非住家136棟(同121棟)。農業、林業、水産業、商工・観光業、テレビ共聴施設などを含めた8月4日現在の被害額合計は28億9382万円に上る。
 全域での避難解除は3月10日。県や市は、避難生活の解消と早期再建に向け、被災した赤崎町外口の16世帯、綾里の46世帯に対し、仮設住宅の提供を進めてきた。建設型は同日、市が県に対して整備を要請し、赤崎町の旧蛸ノ浦小と旧綾里中の両グラウンド2カ所で建設に着手した。
 いずれも、木造の長屋建て。建設戸数は蛸ノ浦が7戸で、綾里が26戸。入居戸数は蛸ノ浦が7戸、綾里が19戸で5月に入居が始まった。これとは別に、既存の公営住宅や、民間賃貸アパートをはじめとした「みなし仮設」の利用もある。
 公費解体は219棟の申請があり、7月末までに43棟で着手。終了は6棟で、作業用倉庫などの再建が可能となった場所も出ている。
 今月4日時点での義援金、見舞金、ふるさと納税災害支援寄付受け付け総額は27億4091万8439円に達した。被災者の直接的な支援を目的とした義援金は16億5000万円を超え、このうち11億2480万円の配分先が決定。全壊世帯に対しては1200万円で、住家を購入、再建する際の加算は600万円となっている。
 国、県の支援も生かしながら、被災者の早期住宅再建やなりわい再生、森林の早期復旧に向けて動きつつあるが、具体的な取り組みはこれから。発災から半年を迎え、多様な分野で課題も見えてきた。