「なりわい再生」へ一歩ずつ 大規模林野火災 漁具、倉庫など被害の綾里漁協 定置網復旧、組合員支援も
令和7年9月4日付 1面

大船渡市大規模林野火災の発生から半年が経過し、被災地では人々の暮らしを支える「なりわいの再生」が進められている。国などからの公的な各種支援策も示されている中、定置作業保管施設や定置網の焼損をはじめ、多くの組合員らが漁具等の被害を受けた三陸町綾里の綾里漁業協同組合(和田豊太郎組合長)では、同業者とのつながりやさまざまな支援を活用しながら、漁業者がそれぞれの浜仕事に汗を流す。地域に根付き、幾多の災禍を乗り越えてきた水産業を守り、次代に継承すべく、組合員らが一歩ずつ着実に復興への歩みを進めている。(菅野弘大)
「がれきの撤去は目に見えて進んでいるのが分かり、半年がたって気持ちはだいぶ落ち着いた。ただ、復興にたどり着いても、その先も続いていく。組合を辞めるまで、気は抜けない」──。和田組合長(75)はこの半年を振り返り、こう語った。
2月26日に発生した今回の林野火災。同漁協では、40人以上の組合員が自宅や倉庫、漁具を失ったほか、定置作業保管施設と、この施設内に保管されていた大入、願松両漁場2カ統分の定置網漁具4セットが焼損する被害を受けた。
火災の影響で例年より少し遅れてのスタートとなった3月からのワカメ漁は、ボイル、塩蔵などの加工設備を焼失し、生出荷を余儀なくされた組合員もいた。5月からのウニ漁も同様の状況で、漁具焼失の影響を考慮して解禁時期を6月に遅らせる対応を取り、被災組合員にさおやスラスター(推進機)などの漁具を漁協で無償提供するなど、独自の支援策を展開した。
定置網は例年、5月中旬に網入れを行うが、火災で今季の操業が危ぶまれた。それでも、以前からつながりのあった㈲泉澤水産(本社・釜石市)から網を借りることが決まり、大入漁場から復旧を計画。6月17日に初水揚げを果たすと、残る願松漁場も、岩泉町と野田村、北海道から借り受けた網を入れ、8月1日に初起こしにこぎ着けた。
しかし、海に入れる定置網は、陸に揚げての乾燥作業や網染め等の定期的な整備が必要で、通常は1カ統で2セットの網を入れ替えながら漁をするが、借りた網は2カ統で1セットずつしかなく、整備期間に漁をする網がない状態に。大入漁場の網は8月中旬から整備に入っており、漁再開は9月中の見込み。今季はメジマグロやサバを中心に水揚げが進んでいるが、網の事情などで漁獲高にも影響が及ぶとみられる。
定置網の再導入に関しては、復旧・再建に向けた国の特例措置として、支援補助割合を4分の3に引き上げる策が示されており、同漁協では、来年の漁期に間に合うように発注をかけることとしている。定置作業保管施設も新たに再建する方針で、和田組合長は「業者が決まれば、あとはお任せすることとなる」としつつ「施設裏の焼けた立ち木や斜面をどう整備するか」と懸念点にも目を向ける。
今後は、組合員の倉庫としての活用を想定するコンテナの設置も検討中で「不公平感のないように、どれだけの支援を行っていけるかが重要だ」と見据える。
「東日本大震災の被害から懸命に立ち上がり、一段落が見えていた矢先の林野火災。ここまでの被害になるとは思ってもいなかった」と和田組合長。それでも「被災した人たちが多くいる中で、生活再建やなりわい再生に向けて、漁協が揺らぐわけにはいかない。それぞれの時代を乗り越え、発展してきた水産業を継続し、後世に残すことが、後継者に対するわれわれの努めだ」と力を込める。