三陸町吉浜地区太陽光発電事業 自然電力が中止発表 計画12年で突然の終止符 採算性困難、FIT認定失効も一因

▲ 自然電力が太陽光発電事業を計画していた吉浜地区・大窪山の「元山」。事業を継続せず中止を決めた

 大船渡市三陸町吉浜地区の大窪山市有地などで大規模な太陽光発電事業を計画する自然電力㈱(本社・福岡県福岡市、磯野謙、川戸健司、長谷川雅也代表取締役)は4日、同事業の継続中止を発表した。近年の人件費や資材費高騰などの厳しさに加え、先月上旬に通知を受けた再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)事業計画認定の失効も一因とする。平成25年から検討し、住民の賛否が分かれ注目を浴びてきた計画は、市長の総合的判断を待たずに、突如の終止符が打たれた。(佐藤 壮)


 発表に合わせ、長谷川代表取締役が4日、東海新報社の取材に応じた。「12年間と長く続いてきた中で、建設費や労務費、為替の変化がかかわっている。再評価のプロセスの中で、コストを回収できるめどがたたないと判断した。残念だが、事業を中止する判断に至った」と説明した。
 今月上旬、経済産業省から同社側に対し、FITの事業計画認定が「失効した」との内容で通知があった。近年、固定価格買取額は下落が続いており、採算性などへの懸念が強まっていた中、長谷川代表取締役は「失効が中止理由の全てではないが、一つの要因になっている」と述べた。
 同事業では、市長が住民理解などを総合的に判断し、最終的な土地賃貸借可否を決める流れとなっていた。今回の失効は、土地の権利が遅滞なく確定しているという認定要件に整合しないと判断されたとみられる。
 これに対し、自然電力側は「これまで調査や準備に対して市が理解し、安定的・包括的に活用できるという認識だった。今年も有効になっているのを確認していたが、遡及的に有効ではないという点には驚いている」とし、困惑を隠さない。
 同事業に対しては賛否が分かれ、反対を訴える住民との対立が続いてきた。長谷川代表取締役は「企業努力を重ねてきたが、コスト面の数字を見て、採算性を正当化できる状態ではなかった。反対の意見があったからこの決断ではなく、説明を続けていく予定だった」とする。
 自然電力として、大窪山での別事業を考える方針はなく、事実上の撤退となる。「反対から賛成に変わった人や、背中を押してくれた方々を思えば、中止の決定をするのは断腸の思いであり、申し訳ない。支えてくれた方々には感謝している」とも話した。
 現在、同事業は県条例に基づく環境アセスメントの手続きを進めている。最終的には取り下げの形となるが、調査内容については地域と共有するよう検討することにしている。
 事業中止を受け、渕上清市長は「本日、突然に事業を中止する旨の報告を受け、驚いているが、事業者が熟慮したうえでの判断であるととらえる。今後においては、土地賃貸借に関する契約など必要な手続きを進めることになる」とコメントした。
 吉浜地区での事業者は、自然電力の100%子会社・岩手三陸太陽光発電合同会社となり、敷地面積は約98㌶。このうち、パネル敷地面積は25・4㌶で、約7万6600枚を整備する計画だった。