総額で29億5308万円に 大規模林野火災 産業分野の被害額 自己負担踏まえ復旧方針転換も
令和7年9月6日付 1面

大船渡市大規模林野火災に関する産業分野の被害額が、2日現在で29億5308万円に上ることが、市のまとめで分かった。これまで調査中だった菌床しいたけ栽培施設や林業機械の被害も確定。市や県は復旧に向けて各種補助事業を設けている一方、自己負担に対する見通しが立たないといった理由で、生産者の中には当初描いていた復旧方針を転換する動きも出ている。(佐藤 壮)
市は火災の鎮圧直後から産業分野の被害の取りまとめを進めているが、林業関係の多くは8月まで「調査中」だった。今月4日の記者会見で被害額の詳細を示し、調査を終え、確定したことを明らかにした。森林分野に関する被害額は現在も調査を続けている。
三陸町綾里の菌床しいたけ栽培施設は1事業者が管理する2棟が全焼し、被害額は5637万円。このうち、1棟の施設内では菌床しいたけ栽培用の培地8000個が焼損して、274万円の被害額となった。避難指示発令に伴い、しいたけ自体も15万円分が収穫できなかった。
施設を管理する綾里の舘脇一人さん(56)は、全焼した2棟の復旧を諦め、火災前から使っている日頃市町内の3棟での生産に専念することにした。「7月までに補助を受けるか決めなければならなかったが、自己負担が1000万円近くかかる計算になる。もう少し若ければ復旧をするだろうが、農協とも相談し、再建しないことにした」と話す。
市議会6月定例会では、菌床しいたけ栽培施設の復旧に対する補助金の財源が盛り込まれた補正予算が可決された。市の事業費は3503万円で、補助率は4分の3となっている。
綾里の施設は比較的生育が良く、年間で7㌧程度生産していた。日頃市町内の施設は15㌧で、今後は収穫期を広げるなどして生産量を増やすことにしているが、それでも火災前の規模には届かない見通しだ。
現在、焼失した施設の解体・撤去に対する公的支援の見込みもないという。舘脇さんは「今後が不安といえば不安。細々とやっていくしかない」と語る。
林業機械は気仙地方森林組合が所有するグラップル付きのバックホウなど4台が被災し、8898万円。5日開会の市議会9月定例会に上程された本年度一般会計補正予算に、林業・木材産業循環成長対策事業として再整備や被災機械の搬出撤去、修理に要する費用の4分の3を補助する財源が盛り込まれている。
補助の予算額は6674万円で、このうち国が2分の1、県と市が各8分の1。市が負担する1112万円は、発災以降に寄せられているふるさと納税寄付を生かした基金から充てる方針。補正予算可決後に事業を進め、9月下旬の着手を見据える。
水産業は、定置漁業用倉庫1棟全焼で4億412万円。定置網の焼失は7億円で、大船渡市、綾里の両漁協の計63組合員が所有する倉庫、養殖業の加工機械焼失は5億180万円。養殖アワビ事業者は、停電によるアワビ約250万個のへい死や給水設備損傷などで5億1000万円を超える。
農林漁業をはじめとしたなりわい再生について、市は復旧事業を基本としている。林野火災対策局では「一部では、自己負担があって復旧を断念する方もいる。意見交換を重ねており、負担がないような形で事業を続ける方もいるほか、高齢などの理由で事業を辞めざるを得ない方もいる」との認識を示す。
商工・観光関係では、建物焼失といった直接的な被害が19事業者で1億2952万円、予約キャンセルや避難指示期間中の売り上げ減少などの間接的被害は132事業者で4億195万円となった。
間接的な影響に対し、市は、個別の休業補償などの制度がなく「実施は困難」とする。今後は、地域経済の回復につながる取り組みを検討することにしている。
テレビ共聴施設は綾里や赤崎町長崎の7施設でケーブルなどの損傷があり、被害額は6469万円。避難指示に伴う鉄道の代行バス運行費316万円もあり、産業分野の総額では29億5308万円となった。
被災したテレビ共同受信施設については、仮復旧により当面の視聴が可能となっているが、国に対する制度改正の働きかけと県独自の復旧支援策を検討するよう要望を続けてきた中、制度改正が実現し、これまで対象外とされていた施設も復旧支援の対象に加わった。市は地元関係者や施設管理事業者等と連携し、本復旧を支援する。