■視点/吉浜地区の大規模太陽光発電事業計画中止㊤ 「総合的判断」なき終着 さまざまな民意に行政側の対応は
令和7年9月9日付 1面
大船渡市三陸町吉浜地区の大窪山市有地などで大規模な太陽光発電事業を計画する自然電力㈱(本社・福岡県福岡市、磯野謙、川戸健司、長谷川雅也代表取締役)は4日、同事業の継続中止を発表した。これまで、計画に対して市民からは持続可能な市政運営を見据えた歳入確保などへの期待が見られた一方、自然環境への影響や着工に向けた手続きの問題点などを取り上げ、反対も根強かった。検討開始から12年で至った判断は、今後にどう影響するか。賛否が分かれる課題への解決策や、事業可否の「総合的判断」を行わぬまま終着を迎えた市当局の対応のあり方も含めて考えたい。(佐藤 壮)
推進と反対、双方の明確な意見。さらに、そのどちらかの思いはありながらも、対立に巻き込まれないよう明確に意思を示さず見守る層──。さまざまな民意がある中で、最終的には、事業地となる市有地を貸すかどうかの市長の「総合的判断」によって結論に至ると思われてきた。
今月、事態が急転した。着工を目指してきた自然電力による経営的判断によって、中止が決まった。別の事業を行う考えはなく、大窪山での開発が消えたことになる。
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反対を訴えてきた人々にすれば、今回の決断によって、時間を要したにせよ、当初思い描いてきた結論に達した。自然環境を守る観点を発端に、事業者や行政が、さまざまな意見や指摘に向き合う期間をつくった。
この間、国の認可に対するルール変更や資材高騰など、事業を取り巻く情勢が変わっていった。不安や反対の声以外にも、無視できない状況が生まれた。
自然電力は事業中止の理由について「当社グループ全体で、経営基盤の強化や事業ポートフォリオ(所有する資産構成)の精査に注力する中で、これまでの累積投資負担に加え、近年の人件費や資材費の高騰など、事業環境が厳しさを増す中で、事業性について改めて評価した結果、事業を継続することは困難との経営判断に至った」と説明する。
先月上旬に通知を受けた再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)事業計画認定の失効も、一因とする。これまで同社は「吉浜地区の事業における売電単価は1㌔㍗アワーあたり36円で、買い取り期間は令和22年まで」としていた。仮に、現状の買取価格で進めようとすると10円を切る状況が予想される。
事業化の検討開始は、東日本大震災発災から2年後の平成25年。長谷川代表取締役は「12年間のコストや、環境アセスなどの費用が積み重なっている。世界のサプライチェーン(原材料を含めた供給体制)にも影響が直撃し、建設費や労務費など、事業コストの総額がふくれあがっている。グループで努力を続けてきたが、回収のめどが立たないという結論に至った。FIT失効でも電力の売り方は他にもあり、検討はしたが、難しくなったという判断となった」と語る。
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自然電力の中止発表に対し、市内では現時点で目立った動きは見られない。仮に、市長が土地利用を「認める」「認めない」いずれかの判断を下した場合、推進派と反対派の分断など、〝返り血〟も予想された。しかし、市長判断がなかったことが、良かったとも言い切れない。
事業を「認めない」場合、財源確保が課題となる中で、固定資産税や土地使用料といった安定的な歳入確保をどう進めるのか。「認める」場合は、貴重な自然環境をどう保持するのか。
また、住民賛否が分かれる事業に対して、行政はどのような考えや判断軸を大切にすべきなのか。総合的判断の先にある未来像が語られぬままの終着には、喪失感すらつきまとう。





