災害公住 自治会活動に黄信号 震災発生14年半 気仙両市で役員の高齢化や人手不足深刻
令和7年9月11日付 1面

東日本大震災後、気仙両市に整備された災害公営住宅団地の一部で、自治会の活動に黄信号がともっている。高齢化、人手不足を理由に特定の役員に運営の負担が集中し、新型コロナウイルス禍や被災者以外の一般入居受け入れなどで対面の交流の機会が減った。発災から11日で14年6カ月。つながりの希薄化は孤独死のリスク増大などにつながり、コミュニティー形成支援に携わる関係者は「このままでは解散する自治会が増え、ますます住民の孤立化が進んでしまう」と警鐘を鳴らす。(高橋 信)
「来年3月で辞める」。
8月19日、陸前高田市気仙町の市営住宅今泉団地集会所で開かれた同団地自治会の定例役員会。会長の佐藤章さん(84)が、10人ほどが集まった役員の前でそう宣言した。後任は決まっていない。
14年半前の津波で同市の中でも特に深刻な被害を受けた今泉地区。団地はかさ上げされた造成地に整備され、平成29年4月に入居が始まった。
2棟61戸で、自宅を失った気仙町民らが集まった。自治会は同年秋ごろに立ち上がり、佐藤さんが会長に就いた。
集会所には入居者が連日のように集い、明るい声が響いた。新年会、ラジオ体操、共同管理する畑への花植えなど活発に活動し、外部の団体によるイベントも頻繁に開催された。
佐藤さんは、会計を務める妻の智子さん(80)との二人三脚で自治会を引っ張った。「もともと人前に立って話すのが大の苦手で、会長なんてやりたくなかった。でも当時は支援者が一生懸命関わってくれて『その善意に応えよう』と思ったし、まだ70代だったので頑張れた」と振り返る。
しかし、町内の高台で自宅再建が進むと、団地からの退居が相次いだ。コロナ禍で令和2年度から自治会の活動は一時、休眠状態に入り、非被災者の受け入れも始まった。数年前に女性部が発足され、一部役員は熱心に活動しているが、イベントを企画しても参加者が思うように集まらなくなった。
佐藤さんによると、現在、入居する57世帯のうち、被災世帯と非被災世帯はほぼ半々。独居者は約40世帯に上り、高齢化率は約5割と、社会的共同生活の維持が困難な状態を指す「限界集落(地域人口の50%以上が65歳以上)」と同水準に達している。
佐藤さんは「80代になり、人の名前を覚えるのが困難になってきた。毎月、役員会が近づくたびに『今月もまた来る…』とため息をつく。草刈りなどやれることはやるが、会長職は本当に限界だ」と切実な胸の内を語る。智子さんも「あとはゆっくりと過ごしたい」と望む。
県によると、県内の災害公営住宅は計5833戸整備され、このうち、県営1760戸には今年6月末時点で1431世帯、2393人が入居。高齢化率は40・5%となっている。
陸前高田市営の災害公営住宅は10団地計594戸あり、7月末現在、544世帯900人(被災者431人、非被災者469人)が入居。高齢者は358人で、高齢化率は39・8%だった。
気仙などにある災害公営住宅のコミュニティー形成支援に長く携わる岩手大の船戸義和客員准教授は「これまで住民を見守ってきた人が見守られる立場になっている。自治会役員の一部に負担が集中しており、速いスピードで限界が近づいている」と指摘し、「支援者と一緒に活動し、地域力を底上げしないと立ちゆかなくなる」と提言する。
国の第2期復興・創生期間が本年度末で終了する中、自治会活動の今後と支援のあり方について考えようと、15日(月・祝)には大船渡市盛町の県営みどり町アパートで、県内災害公営住宅自治会役員と支援者による勉強・交流会が開かれる。船戸客員准教授は「光明を見いだすような道筋を皆さんと考え合いたい」と見据える。