大船渡と飛鳥Ⅲ結ぶ「架け橋」に 陸前高田の画家・田﨑さん 運航会社に感性光る絵画寄贈

▲ 飛鳥Ⅲの船内で神谷船長(右端)に絵画を手渡す田﨑さん(左から3人目、大船渡市提供)

 陸前高田市横田町の画家・田﨑飛鳥さん(44)は7日、今夏就航した日本船籍最大級の新クルーズ船「飛鳥Ⅲ」(5万2265㌧)を描いた絵画を運航会社の郵船クルーズ㈱に寄贈した。当初は、8月の大船渡港での歓迎イベントでプレゼントする予定だったが、台風の影響で寄港が見送られ、絵画も渡せなかった。7日は同船が宮古市の宮古港に立ち寄り、田﨑さんらが現地を訪れ、作品を直接届けた。寄贈の仲介に尽力した大船渡市担当者は、就航を祝う名画が大船渡港と同船を結ぶ架け橋となるよう願いを込めた。(高橋 信)

 

 7日は田﨑さんと田﨑さんの両親、大船渡市観光交流推進室の古内弘一次長、富山智門係長らが宮古港を訪ね、神谷敏充船長に絵画を手渡した。贈呈式は特別に操舵室で行われ、田﨑さんらは飛鳥クルーズ側の配慮に感謝した。
 作品名は「希望・飛鳥Ⅲ」。F30号サイズのキャンバスの半分ほどを使い、主役となる総重量5万㌧を超える大型クルーズ船を大胆に描いた。本来、白色の船体に赤色やオレンジ色などを使い、船窓の色もいくつもの色を重ねて表現するなど、田﨑さんの持ち味である色使いが光る。
 7月に就航した飛鳥Ⅲは8月3日、東北第1号の寄港地として大船渡港に入港する予定だった。地元側は新船の就航と初入港を記念し、「最大限のおもてなしをしよう」と官民を挙げた歓迎行事を企画。大船渡市は、客船と同じ「飛鳥」の名を持つ田﨑さんに絵画の制作を相談し、行事の中で寄贈することとしていた。
 しかし、台風接近に伴い、同港入港を含むクルーズの運航が中止となり、野々田埠頭での行事もキャンセル。市は次回の入港まで作品を庁内に保管することも選択肢の一つに検討したが、「この素晴らしい絵画を一日も早く飛鳥Ⅲに贈ろう」との判断に至り、宮古港に出向いて届けることとした。
 生まれつき脳性まひで、知的障害がある田﨑さん。独自の感性で描いた鮮やかな色彩の絵画は多方面から評価されており、現在開催中の大阪・関西万博の会場には田﨑さんの作品を原画にした巨大壁面アートが展示されている。
 田﨑さんの父・實さん(78)は「大船渡市の計らいで寄贈が実現し、とてもありがたく思う。贈呈式後、神谷船長にはわざわざ岸壁までお見送りいただき、うれしかった。絵をたくさんの人に見てもらうことで、息子の飛鳥が社会とつながることにもなる」と感激していた。
 古内次長は「飛鳥クルーズの新造は34年ぶり。当市と関係の深い郵船クルーズに対するこれまでの感謝、就航のお祝い、今後の末永いお付き合いなど、さまざまな思いを込めた記念品を贈ろうと検討し、田﨑さんに制作を相談した。神谷船長にも大変喜ばれ、早期に届けられて良かった」と話した。
来年4月、大船渡港に入港予定

 飛鳥Ⅲは来年4月22日(水)、春の大船渡・青森クルーズ(同4月20~25日)の一環で、大船渡港に入港する。8月の初入港が見送りとなり、大船渡市担当者は「次こそはおもてなしを」との思いを募らせている。
 8月の歓迎行事では、大型サンマ船3隻による客船の誘導のほか、乗船客向けの日本酒試飲、物産販売、海産物振る舞いなどを計画。郵船クルーズ側の厚意で、大規模林野火災の被災者を対象とした船内見学会、昼食会も予定していた。
 古内次長は「林野火災の被災者に対する心温まる企画も予定されており、気合を入れて飛鳥Ⅲを出迎える予定だったので、それがかなわず残念。来春こそは大船渡らしいおもてなしを精いっぱい展開したい」と意気込む。