「海のミルク」 旬到来! カキのむき身作業が本格化 気仙沿岸 実入り安定、高値に期待込め(別写真あり)
令和7年10月2日付 1面

気仙沿岸で9月30日から、東京都中央卸売市場・豊洲市場に出荷する養殖カキのむき身作業が行われている。各漁港の作業場では、早朝から殻にナイフを入れる小気味よい音が響き渡り、「海のミルク」とも呼ばれるカキの旬到来を告げる。今年も依然として海の水温が高く、成育への影響が懸念される中、「昨年よりは良い」との声も。作業にあたる漁業者は、安定した実入りや高値での取引に期待を込めながら、手を動かしている。(菅野弘大)

平さん(右から2人目)からむき身作業のこつを教わる東京・竹早高の生徒
毎年、気仙産のカキは全国トップレベルの品質と価格を誇る。両市でのむき身作業は、豊洲市場で2日に行われる「初競り」に向け、先月30日から始まった。
大船渡市大船渡町宮ノ前の岸壁沿いに並
ぶ作業場では、大船渡養殖組合(中島達也組合長)の関係者らが作業を進めている。組合員の平剛次さん(46)も30日に「初むき」を行い、1日は雨が降る不安定な天候の中で、ぷりぷりとした乳白色の身を殻から外し、品質を確かめながらサイズ別に一つずつ仕分けた。
近年続く猛暑により、昨年は海水温の上昇で成育に遅れが出たり、死滅も相次いだ。今年の水温は昨年並みとまだ高い状態が続いており、漁業者らは雑ものを取り除く温湯処理などの対応に追われながら、暑さと戦ってきた。
「死滅や病気もあり、仕込んだ量に対して出荷量は減っているものの、近年は高値で推移していて、金額に助けられている。ただ、燃料や資材代などは高騰しており、厳しい部分もある」と平さん。「今年は死滅が少ないのが安心材料で、シーズンのスタートとしては良いのでは。まだ卵が多く、これから冬にかけて実入りが良くなってくれれば」と願う。
また、この日は、修学旅行の一環で陸前高田市広田町の吉田喜衞さん(79)・信子さん(78)夫妻の家に民泊している東京都立竹早高校2年の松本聡一郎さん、加藤凱斗さん、武藤水飛さんの3人が、平さんの作業場でむき身作業を体験。平さんや信子さんから手順とこつを教わりながらナイフを入れ、徐々に要領をつかむと、黙々と作業を進めた。関係者と会話を弾ませる様子も見られ、気仙の方言に戸惑いながらも、笑顔で交流を深めた。
松本さんは「作業の楽しさややりがいを知れたし、地域のつながり、温かみを感じる」、加藤さんは「東京ではできない貴重な体験で、地元の方と作業できて楽しい」、武藤さんは「地方ならではの人情や雰囲気を感じ、心穏やかに過ごせる」とそれぞれ話していた。