循環経済拠点港湾・サーキュラーエコノミーポート 大船渡港の選定へ意欲 静脈物流の実績や強み セミナーで発信
令和7年10月4日付 1面

再生可能資源のコンテナ移入などが定着している大船渡港で、国土交通省が本年度以降に選定を進める「循環経済拠点港湾(サーキュラーエコノミーポート)」への関心が高まっている。2日に東京都内で開かれた「いわて・大船渡港セミナー」でも渕上清市長が前向きに取り組みを進める方針を示し、先月には同市を支援する国家公務員チームも石破茂首相に直接説明した。太平洋セメント㈱大船渡工場は廃棄物の資源化・燃料化によるリサイクル事業も手がける中、今後の展開が注目される。(佐藤 壮)
首相に直接説明も
「大船渡港ではすでに、静脈物流システムが構築されている。循環資源支援取扱施設に対する支援や、関連企業誘致による市内経済への波及など、さまざまな効果が期待される。港湾管理者である県などと連携し、選定を目指して前向きに取り組みたい」
2日に東京都内で開催された「いわて・大船渡港セミナー2025in東京」。主催した大船渡港物流強化促進協議会の会長を務める渕上市長は、首都圏の荷主企業や商社、運送事業者、船社などの関係者約160人を前に、サーキュラーエコノミーポート選定への意欲を示した。
国土交通省は、循環資源に関する物流ネットワークの拠点となる物流機能や、高度なリサイクル技術を有する産業集積がある港湾をサーキュラーエコノミーポートとして選定し、港湾を核とする物流システムの構築による広域的な資源循環を見据える。本年度以降の選定を予定している。
これまでの検討では、選定に当たっては▽広域的な循環資源の流動をはじめとする静脈物流にかかる港湾取扱貨物量が一定程度見込まれる▽高度な分別収集・再資源化施設をはじめとするリサイクル関連施設が既に立地している・見込まれる──といった視点が挙げられてきた。市が選定に意欲を見せる背景には、官民一体でこうした検討事項に該当する静脈物流に取り組んできた実績がある。
大船渡港に寄港する内航コンテナ海上輸送「はこ廻船」では、再生資源を燃料としてリサイクルする「ベースカーゴ(運航の中心となる貨物)」を確保。令和6年度のコンテナ貨物取扱量では、代替燃料となる廃プラスチックの移入が805TEUで、前年度の2倍に達した。再生可能資源として太平洋セメント大船渡工場に搬送している。
セミナーでは、太平洋セメント㈱環境事業部サーキュラーマテリアルグループの山下瑞生サブリーダーもプレゼンテーションを行った。同港で取り扱われる全体貨物数量の9割超に太平洋セメントグループが関わり、近年も、ばいじんや燃えがらなど製造工程でリサイクルされる廃棄物の移入で年間20万㌧超の実績がある現状に触れた。
大船渡工場では、廃プラスチック類から製造された「フラフ燃料」を積極的に利用。熱エネルギーの代替物として取り入れ、化石燃料使用や二酸化炭素排出量の削減につながっている。千葉県内の製造元からの港湾を生かしたコンテナ移送の流れも示した。
サーキュラーエコノミーポートを巡っては、政府による「地方創生伴走支援制度」で本年度から同市を支援する国家公務員チームも、選定を目指した取り組みをサポート。関連する民間事業者へのヒアリングにも同席している。先月19日には、石破首相も出席した個別中間報告で同チームが直接説明し、太平洋セメント大船渡工場や大船渡港の荷揚げ施設などを拠点とした推進の方向性を示した。
大船渡港は県内最大の貨物取扱量を誇るが、令和に入ってからは全体として減少傾向が見られ、新たな活用や貨物確保が求められている。こうした中、今年のセミナーは昨年よりも広い会場を確保するなど、規模を拡大。茶屋前(大船渡町)、野々田(同)、永浜・山口(赤崎町)の各岸壁の特長や、日々進む道路環境の向上もアピールし、地元内外の企業関係者同士が交流を深める時間も設けた。
セミナーに出席した、大船渡港物流強化促進協議会の物流強化支援アドバイザーも務める東北汽船港運㈱業務部の吉田裕一業務課長は「使いやすさに加え、行政などの地道な取り組みで、大船渡港への関心は高まっている。静脈物流も、特殊なコンテナを用いた定期便や受け入れ施設があるのは強み。さらに貨物を伸ばす切り口になる」と話す。