どう守る 地域の〝宝船〟 木造千石船「気仙丸」 陸上展示から4年、保全策急務(別写真あり)

▲ 陸上展示されている気仙丸の船内。随所に船大工の高い技術力とこだわりが光る

 大船渡市の大船渡商工会議所(米谷春夫会頭)が所有する木造千石船の復元船「気仙丸」は、陸上展示開始から今月で4年を迎えた。市の顔である大船渡駅周辺地区のシンボル的存在として定着した一方、腐食防止への取り組みや、利活用の充実が求められている。商議所では住民向けセミナーをきょう開催するほか、保全プロジェクトの財源確保へ、近くクラウドファンディングを始める。(佐藤 壮)

 

きょう住民向けセミナー

 

 気仙丸は長さ18㍍、幅5・75㍍、高さ5㍍。帆柱の高さは17㍍。今年解散した気仙船匠会のメンバーらが建造し、平成3年に完成した。翌4年には「三陸・海の博覧会」に協賛出品されたあとは大船渡湾内で係留された。14年前の東日本大震災では流失や大規模損壊を免れ、「奇跡の船」としても知られる。
 老朽化が進んだことから、気仙大工の技術や歴史継承を見据え、令和2年に陸上に引き上げられた。液体ガラス塗装を施し、傷みが進んだ部分を新調。3年10月から、おおふなぽーと付近での陸上展示が本格化した。
 中心市街地のシンボル的な存在として、産業まつりに合わせたイベントや観光客らが立ち寄る姿も定着している一方、部材の腐食進行の影響が懸念される。雨水が染みこむなどして黒ずみが散見されるようになってきた。将来を見据え、保全策の重要性が日増しに高まっている。
 18日には、公益財団法人日本海事科学振興団(東京都)の学芸員・小堀信幸さん(76)が気仙丸を視察した。平成3年の建造当時、気仙船匠会を中心とした建造チームが都内に構える船の科学館を訪れた際、和船について小堀さんから説明を受けたつながりがある。船匠会で長年副会長を務めた菅野孝男さん(82)=陸前高田市気仙町=や商議所職員らが同行した。
 小堀さんは気仙丸について「船大工をはじめ船匠会の方々がさまざまなところで勉強してきた知見や技術が結集された船」と話す。視察では、雨風や紫外線など、木造船を屋外で保存展示することの難しさも指摘した。
 菅野さんは「屋根をかけない状態で、帆柱をいつまでここに乗せておくことができるだろうか。せっかく手がけた船でもあり、心配。腐食はどうしても日々進んでしまう。シートのような素材でもいいから屋根をかけることはできないだろうか。いつまでも保存してもらいたい。市の宝船として、商工会議所だけでなく、市をはじめとしたさまざまなところが協力してくれれば」と気をもむ。
 今後の維持管理に向け、財源確保が大きな課題。屋根をかけるとなれば多額の事業費が見込まれ、早急な整備は難しい。現在進行形で進む傷みを少しでも食い止めようと、商議所は現在、保全に向けたクラウドファンディングの準備を進めている。
 また、気仙船大工の技術力や、干鮑をはじめとした産品を木造船で流通させた江戸時代の海運文化などの発信を切り口に、さらなる利活用が期待される。商議所では、地域住民らが身近に気仙丸の歴史や魅力を知る機会創出にも力を入れている。
 19日午前10時から開催する住民向けのセミナーは2部構成。第1部はおおふなぽーとが会場で、小堀さんが大型木造帆船の歴史や魅力などについて解説する。展示場所に移動しての第2部は気仙丸の乗船体験会で、専任ガイドの佐藤公精さん(72)が案内する。参加無料で、当日参加も受け付ける。