森林被害額59億3900万円 大規模林野火災 県と市の調査完了 産業など全体では100億円超える見通し
令和7年10月29日付 1面
							大船渡市は28日、大規模林野火災の森林被害額が59億3900万円に上ることを明らかにした。5月~10月に県と市が実施主体となり、被災森林全域を調査し、立木の樹種や林齢別に設定された単価を用いて算定。市は水産業や農業など産業等の被害額が、今月時点で42億6674万円に上るとしており、全体では100億円を超える見通しとなった。平成以降では最大の延焼面積となった被害の甚大さを改めて裏付けるとともに、森林再生事業充実の必要性などが浮かび上がる。(佐藤 壮)
 調査区域は2月26日に発生した大規模林野火災に加え、同19日に三陸町綾里で発生した林野火災の区域も含む。実施主体は県と市だが、現地調査は林野庁三陸中部森林管理署、気仙地方森林組合と共同で行った。
 衛星画像データを活用し、被害状況の解析を実施。困難な区域に関しては、現地調査を行った。森林被害面積は3370㌶となった。
 被害額の算定方法は、森林保険法に基づく森林保険制度の保険金額を基準とした。樹種や林齢別に設定された単価を用いて算定した。
 所有形態別、林種別の内訳は別掲。私有林の割合が多く、個人や地域ごとに組織されている団体が所有する山林の被害が目立つ。
 林種別に見ると、人工林が全体の53%を占め、被害額は9割超に上る54億3000万円。人工林1㌶当たりの被害額は304万円となる。
 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林保険センターは、ホームページで災害発生時に支払う保険金の限度となる保険金額を樹種、林齢別に公表。スギの「41年以上45年以下」は1㌶当たり299万円、「51年以上55年以下」は320万円、「61年以上」は346万円とする。
 今年8月に開催された市林地再生対策協議会の資料によると、被災した人工林のうちスギが8割超、アカマツが約1割を占める。天然林はアカマツが15%程度で、残りは広葉樹が占める。
 県の調査では、被災木を▽激(立木の全体・大部分が焼損)▽大(高さ2㍍以上の焼損)▽中(高さ2㍍程度までの焼損)▽小(根元30㌢までの焼損)──に選定しているが、この区分による被害額の差は付けていないという。被災程度別の面積などに関しては、来月開催される第3回市林地再生対策協議会で公表される見通し。
 森林の被害面積と被害額について、渕上清市長は「調査にご尽力いただいた県をはじめ、関係機関の皆さまに、心から感謝を申し上げる。被害の全容が明らかとなったが、全体では被害額が100億円を超えることとなり、改めて今回の火災が地域にもたらした影響の深刻さを痛感している。県や関係団体と連携し、被災森林の再生を着実に進め、再び同様の災害が発生しないよう、予防体制強化に取り組む」としている。
 市は森林災害復旧事業に向けた所有者を対象とする意向確認を今月17日で締め切り、現在、取りまとめを進める。意向に基づいた事業計画概要なども、林地再生対策協議会で示すことにしている。
 森林被害を除く産業などの被害額は、今月7日時点で42億6674万円となっている。このうち、林地荒廃は11億4726万円。樹冠部を含め燃え方が激しく森林機能が失われて保水力が低下し、治山事業を必要とする区域など10カ所の算定で、今回発表した森林被害とは別の計上となる。
 農業分野は施設等焼損など1億1082万円。水産業は綾里漁協の定置漁業用倉庫や定置網に加え、同漁協と大船渡市漁協組合員が持つ養殖加工機械の被災、養殖アワビ事業者は成育していたアワビのへい死など20億9755万円に上る。
 商工・観光業関係のうち、建物・倉庫の焼失や損壊など直接的な被害は1億4862万円。避難指示期間中の売り上げ減少など、間接被害は3億8295万円となった。
 産業等の分野では今後、大きな変動はない見込みだが、被害額が算定されていない分野でも、住宅全壊は54戸、住家以外では121戸に上るなど、実際には100億円を大きく超える規模で被害が及ぶ。爪痕が各分野に残る中、今後の復旧・復興に向けては、さまざまな事業を進める組織づくりや、県をはじめ関係機関との連携強化、国に対して各種制度の柔軟な運用を求めるといった課題への対応が、より求められる。
                        
                    




