要支援者対応の課題指摘も 大船渡市地域医療懇 大規模林野火災時の活動共有

▲ 本年度初開催となった地域医療懇話会

 令和7年度第1回大船渡市地域医療懇話会は10月30日夜、市役所で開かれた。災害時における地域医療を議題とし、2月26日に発生した大規模林野火災時における各団体、地域の取り組みや課題について意見交換。避難者へのきめ細かい支援などにつながった連携が明らかになった一方、避難行動要支援者名簿に登載されている住民へのケアのあり方など、今後の災害対応充実につながる教訓も浮かび上がった。
 懇話会は持続可能な地域医療を見据え、昨年度市が設置し、医療関係者や学識経験者、関係機関、医療サービス利用者ら14人でつくる。この日は12人が出席した。
 会長を務める一般社団法人気仙医師会の鵜浦哲朗会長は冒頭、昨年度の懇話会で移動手段確保などについて議論を交わした実績に触れ、「大規模林野火災に見舞われたが、市がいち早く通院対応のバスを確保した動きは、この会議の話が有意義なものであったからだと思っている。災害時の医療のあり方について、活発な意見をお願いしたい」と述べた。
 事務局からは、大規模林野火災の地域医療分野における対応が示された。
 火災発生後は避難指示対象地域が日々拡大し、避難所も増え、被災者は地域・地区を越えた移動や滞在を強いられた中、国保綾里診療所は休診となり、期間中は吉浜診療所での診療日数を増やした。医療機関受診時に、マイナ保険証などがなくても、被保険者の氏名・生年月日、連絡先などを申し立てることで受診可能とした。
 避難所からサン・リアや盛駅を経由して県立大船渡病院まで送迎するバスに加え、市内路線バスの無料券も配布。
 現在は被災者の見守り・相談支援事業を続けるほか、半壊以上の住家被害を受けた非課税世帯の被災者に、月額上限1万円の医療費一部負担金助成を行っている。
 引き続き、災害時における地域医療をテーマに各委員が発言。大規模林野火災や東日本大震災、今年7月のロシア・カムチャツカ半島付近で発生した巨大地震に伴う避難行動などを巡り、自ら所属する立場・団体の視点で感じた所感や課題を語った。
 大規模林野火災に関しては、直接的に被災した医療施設がなかった一方、情報共有や連絡手段の重要性に加え、職員の自宅が被災、あるいは避難指示対象となった場合の対応などが話題に上った。
 複数の委員が取り上げたのは、避難行動要支援者名簿に登録されている住民対応。委員の一人は「誰も支援してくれなかった」「福祉避難所に行けなかった」といった不満の声が聞かれたことを明かした。
 名簿は地域別に作成されているが、地域公民館や町内会単位で組織している自主防災組織が、「対応に困っている」との指摘もあった。
 また、「災害時に協力し合って避難させるが、地域公民館自体の役員が高齢化し、人手不足になっている。要支援者が数十人に上る地域もある。単にリストを作るにとどまらず、安全・迅速に避難させるアドバイスや資金面の援助など、地域に寄り添った対応を」との意見もあり、課題が浮き彫りになった。
 このほか、起き上がることができない住民をはじめ、要介護の状況に合わせた避難体制や、自宅などに送迎に向かう福祉担当者の安全確保に関する発言も。大規模林野火災では地区外に避難所が設けられ、受け入れる関係者が顔なじみではない住民の対応に迫られた中で「信頼感を与えるには、団体名が記されたベストの着用が役立った」との声も寄せられた。
 鵜浦会長は「有意義な話がたくさんあり、今後の参考になったのでは」と総括した。市側はこの日、三陸町にある国保診療所の現状説明も行った。懇話会は、年度内にもう一度開催することにしている。