サーモン海面養殖本格化へ R12年に2500㌧水揚げ目標 ニッスイと市が会見で発表 グループ社が事業展開
令和7年11月1日付 1面
水産大手㈱ニッスイ(田中輝代表取締役社長執行役員、本社・東京都)と陸前高田市は10月31日、市役所で記者会見を開き、同社と広田湾漁協が令和5年から試験的に実施してきたサーモンの海面養殖事業を本格展開することを発表した。事業は同社のグループ会社が引き継ぎ、今後、大型の海面いけすを段階的に導入し、令和12(2030)年時点の水揚げ量は、試験時の10倍以上となる2500㌧を計画。市内に新たなサーモン種苗生産施設を整備し、種苗の供給も手がけている。秋サケの深刻な不漁にあえぐ中、新たな取り組みに期待が集まる。(高橋 信)
種苗生産施設も整備
会見には、ニッスイ漁業養殖推進部の金柱守部長、佐々木拓市長らが出席。今後の事業計画などについて説明した。
養殖事業はニッスイグループ社の弓ヶ浜水産㈱(鶴岡比呂志代表取締役社長、鳥取県境港市)が実施。試験養殖のため整備した広田漁港そばの広田湾内の海面いけすを活用し、今月上旬にも養殖を始める。
魚種はギンザケで、来夏に水揚げを行う計画。水揚げ量は300㌧程度を見込んでいる。
来年11月に、試験時の倍の大きさとなる直径50㍍の大型いけす3基を広田漁港そばの湾内に設置。令和9年夏の水揚げ量はギンザケ1500㌧を想定する。その後、同じ大きさのいけすを2基追加し、同12年時点における数量は2500㌧を掲げている。
種苗生産施設「ニッスイ気仙川養魚場」は、気仙川沿いにある矢作町の広田湾漁協所有のサケ・マスふ化施設を一部改修して新設し、10月から稼働。隣接地に大型水槽10基を新たに整備し、生産能力と作業効率を高めた。
同施設は、ふ化放流事業の休止期間(5~11月頃)に運用。施設で生産した種苗は毎年11月ごろに広田の海面漁場に運び、翌年の夏まで育てて、水揚げするというサイクルを繰り返す。
同社は、12年における国内養殖サーモンの水揚げ量として、1万㌧規模を構想。このうち、世界三大漁場といわれる三陸沖に面する本県は7000㌧を占め、事業化している陸前高田市と大槌町と、今後、試験養殖に着手する大船渡市の3カ所が生産拠点となる。
本県の秋サケ漁は近年、深刻な不漁に見舞われている。県の漁獲速報によると、今季の沿岸漁獲量は10月20日現在で約2・1㌧で、過去5年(令和2~6年)平均と比べてわずか4・7%。大船渡の数量は31㌔にとどまり、県内13の魚市場の中で下から3番目となっている。
県まとめの回帰予報(9月~令和8年2月)では、本年度の秋サケ回帰数量は93㌧で、過去最低を更新した令和6年度実績の117㌧を2割程度下回る見込み。
こうした状況下、ニッスイグループは自社の長期ビジョンで持続可能な養殖事業を掲げ、本県では令和2年に大槌町でサーモンの試験養殖を開始。4年に本格的な事業に移行した。
陸前高田市での試験養殖は5年11月に乗り出し、ギンザケを養殖しながら環境調査を行った。1季目は6年6月に水揚げし、数量は178㌧だった。
2季目は新たにトラウトサーモンを加え、今年5〜7月に水揚げした。数量はギンザケ139㌧、トラウトサーモン83㌧の計222㌧だった。
金柱部長は「ニッスイグループとして良質なサーモンを供給することを一番に考えている。サステナブルな漁業、養殖事業を実現するために、皆さんに安心してもらえるものを届けるということを大事にしたい」と前を向く。
佐々木市長は「日本でトップクラスの水産会社が、陸前高田で事業展開するということとなる。地域の発展の中核を担ってもらいたい」と期待を込めた。





