視点/陸前高田市長公約の現状と課題㊤ 教育、産業分野で成果 給付型奨学金運用 トップセールスでサーモン養殖実現
令和7年11月16日付 1面
陸前高田市の佐々木拓市長と市民が市政課題などについて直接意見を交わす市政懇談会は17日(月)から12月22日(月)まで、市内10地区で順次開かれる。佐々木市政が誕生して3回目を迎え、市長が掲げた選挙公約に関し、市民側からどのような質問・要望が聞かれるかが注目の一つとなる。選挙公約を巡っては教育や産業分野ですでに成果を上げているものがある一方で、「大学誘致」「雇用創出」など今後どのような形で実現させるのか見通しが不透明なものもある。市長と市民との懇談の参考となるよう、公約における現状を整理し、最後に記者としての注文を加えたい。(高橋 信)
市長が掲げる公約の柱は▽大学誘致▽4年間で新規雇用1000人創出▽4年間で農林水産業生産額倍増▽将来を担う〝人財〟支援──。
この大きな柱に入っていないが、いち早く実現させたのが小中学校における給食費の無償化だ。令和5年度から実施し、本年度は小中学生に計916食を提供している。給食費(年額)は小学生5万1900円、中学生・教職員6万630円。無償化に伴う市の負担額は6年度5892万円だった。
小学1年の子を持つ高田町の会社員・村上みよさん(41)は「食材費が高騰しており、家庭としては大変ありがたい支援。給食は栄養満点だし、中学生までみんな同じ食事を一緒にとるのはとてもいいことだと思う」と喜ぶ。
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「〝人財〟支援」に盛り込む返済不要の給付型奨学金制度は、6年度奨学生を皮切りに運用を開始。向学心あふれる市出身の学生を応援しようという趣旨に賛同し、昨年12月から今年3月にかけて、同市にゆかりのある故人の遺族から合計1億7000万円の多額の寄付があるなど、想定外の財源も確保することができた。自治体による同制度運用は珍しいといい、人材育成に積極的な「佐々木カラー」を際立たせる事業となっている。
6年度奨学生は20人、7年度同は38人。現在、募集している8年度同は定員20人程度で、寄付金を管理するために創設した基金、市ふるさと納税の寄付金、一般財源の三つを資金に運用していく。
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そして、農林水産業の生産額倍増に関連する動きとして、今月、水産大手㈱ニッスイ(本社・東京都)のグループ会社によるサーモン海面養殖が本格的に始まった。
事業は佐々木市長が就任後の5年春、ニッスイ本社に直接出向き、役員と面会したのがきっかけという。同年11月からニッスイと広田湾漁協による試験養殖が広田町で行われ、1季目の6年水揚げ量はギンザケ178㌧、7年はギンザケとトラウトサーモン計222㌧だった。
8年は300㌧程度を見込み、大型いけすを増設後の令和12年には試験時の10倍以上となる2500㌧を計画している。
ニッスイは矢作町にある広田湾漁協所有のサケ・マスふ化施設を一部改修するなどして、サーモン種苗生産施設「ニッスイ気仙川養魚場」を整備。同社は今月、大船渡市三陸町越喜来でも越喜来漁協との共同でサーモンの試験養殖に乗り出した。
秋サケをはじめ主力魚種の不漁が続く中、生産拡大やブランド化への期待が集まる養殖サーモン。市長は「地域の発展の中核を担うような企業になってもらいたい」と語る。
一方で、「農林水産業の生産額倍増は、(特定の企業ではなく)一次産業従事者のための公約ではないのか」と問題提起する市民もいる。生産額倍増に向けた各種取り組みが、農林水産業の振興、地域経済の活性化、市民や生産者の実感につなげられるか、まちのトップとしての手腕が問われる。






