視点/陸前高田市長公約の現状と課題㊦ 市長 フィールドワーク実現で「大学誘致達成」 市民の間で賛否割れる懸念 求められる明確・丁寧な説明
令和7年11月18日付 1面
陸前高田市の佐々木拓市長が掲げる目玉の選挙公約「大学誘致」。佐々木市長は10月に開かれた記者懇談会で、現在協議中という県外大学による市内でのフィールドワークを実現させれば「(大学誘致の)公約は達成した」と判断するとの認識を示した。正課の教育活動が行われれば、大学を誘致したといえるのか──。市民らの間で賛否を巡り、議論を呼びそうだ。
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市長は9月の市議会定例会で、フィールドワークについて言及した。ある大学が正課活動として一定期間のフィールドワークを市内で行う方向で手続きを進めていることを明かし、「多くの学生が当市に滞在しながら、種々の活動を体験する見込み」と説明した。
また、市長はこれとは別に都内の国立大学が市内でフィールドワークを行う方向で検討しているとの状況も報告。ITデジタルサービス系の企業誘致に向け、必要な人材を育成するため県内の大学と協議していることも伝えた。
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まちのにぎわい創出や復興事業で整備された公共施設の有効利用を目的に打ち出したとされる大学誘致。令和5年2月の市長選に合わせ、佐々木氏の公約をまとめた後援会のチラシには「陸前高田に大学を誘致する」「豊かな自然、歴史・文化、各種施設を生かした『陸前高田まるごとキャンパス』をつくる」と明記している。これまで目立った進展はなかったが、市長就任から約2年半が経過し、「フィールドワークを行う方向で調整中」との動きがようやく表面化してきた。
10月の記者懇談会で、市長はこのフィールドワークが行われることで「公約を達成した」と判断する根拠について、「当初イメージしていたたくさんの大学生が活動し、(まちを)行き交うこととなる」と説明した。
市内では、立教大学(本部・東京都)が東日本大震災前から、矢作町生出地区で林業体験プログラムを実施。同大は本年度、高田町の陸前高田高等職業訓練校内に「陸前高田サテライト」を開設し、年に1度、同大と岩手大の学生がフィールドワークを行う「合同授業」を正課科目として実施している。
市長がこれから呼び込もうとする大学のフィールドワークと、立教大と岩手大がすでに展開している取り組みは、内容は異なるだろうが、地域に一定期間滞在して市民と交流するという観点では、似たものとして映る。
しかし、昨年6月の市議会定例会で、市長は「私の公約の趣旨、背景は、大学生に陸前高田市にできるだけ長い期間住んでもらい、教育を受けてもらうという考え。(岩手大と立教大の合同授業は)私の公約の整合性からいえば、全く性格が違うのかなと思っている」と答弁している。
どのような違いがあるのか──。今後、市長には市民や議会への明確な説明が求められる。
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公約の柱の「4年間で新規雇用1000人創出」も現時点で具体的な見通しは示されていない。市長は「今後一層、積極的に対応していきたい。今後、折に触れ、状況を伝えていきたい」と述べるにとどまる。
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陸前高田のまちから大学誘致を推進している雰囲気は感じ取れない。その根幹に、市長が思い描くビジョンと、市民らの期待にかい離があるのではないだろうか。市長が躍起になっている誘致活動を応援したくても、その方向性が分からなければ背中を押せない。市長には何を実現させようとしているのか、誘致することでこのまちにどのような効果がもたらされるのか、市民への丁寧な説明を求めたい。
市政懇談会は市民と直接対話できる絶好の機会だ。懇談会の内容は例年、市道の改修、草刈りなど地域の課題が中心となる傾向があるが、選挙公約の現状や展望について膝を突き合わせて語り合う場ともなることを期待している。






