再生へ急傾斜地で先行展開 大規模林野火災の森林復旧 綾里の市有林「今後のモデルケース」(別写真あり)

▲ 急傾斜地で展開されている森林災害復旧事業に基づく伐採作業現場

 大船渡市大規模林野火災で延焼した三陸町綾里熊之入地内の市有林で、市による森林災害復旧事業が進められている。急斜面に搬出路を設け、被災木の伐採作業などを展開。市や委託を受けた気仙地方森林組合では、今後のモデルケースとして位置づけ、よりスムーズな作業に向けた課題把握やノウハウの蓄積も見据える。森林所有者に実施した意向調査では、事業実施希望が780㌶を超える中、マンパワー確保や事業期間の柔軟な運用、事業地から出た木材の活用などの行方が注目される。(佐藤 壮)

 

 市は11月30日、報道陣に事業現場を公開した。現場は不動滝の入り口付近から、林道熊之入線を綾里峠方向に約3㌔上がった先にあり、歩くのも難しい急傾斜地に、重機が行き来する搬出路が設けられている。
 事業用地は24㌶で、現在は6㌶で伐採が進み、これまでに樹齢20~40年のスギを中心に1000立方㍍ほどを切り出しているという。現地の被害木調査では「大」(根元から2㍍を超える延焼)だが、作業に入った現場では根元から数十㌢程度の「小」が中心といい、切り株部分は黒く焦げていても、集積場所では一般的な木材と変わらないものが多い。
 委託を受けた気仙地方森林組合(古内文人組合長)が業者に発注し、10人程度が従事。10月中旬から搬出路などの整備に入り、先月伐採が本格化した。年度内の完了を目指し、8年度からはスギの植林を見据える。
 古内組合長は「見ての通りの傾斜地だが、業者が搬出路をきれいにつくり、今のところは順調に進んでいる」と語る。
 切り出した材は、主にバイオマス発電の燃料材として県内陸部に流通する見込み。古内組合長は「まだ被災程度が大きくない場所の切り出しであり、一般的な伐採現場の作業と変わらない。切り出しも非常に丁寧で、燃料材だけでなく合板にも使えるのではないか。集積ポイントなどで、業者の方に見てもらう機会もあれば」とも話す。
 国の激甚災害指定に基づく森林災害復旧事業は、被害木などの伐採・搬出、シカ食害対策を含む伐採跡地の造林、森林作業道の整備を行う。市は6月、県を通して被害木などの整理を令和7~9年度に約120㌶を進める計画概要書を提出。現地調査や森林所有者の意向確認が完了した施行地から事業量や事業費を精査した。8~10年度の跡地造林も同面積としている。
 公開された現場は、この計画概要書の面積に含まれる。奥地に位置する急傾斜地であり、今後の事業の流れを把握する観点などから、モデルケースとして先行的に選んだという。
 市は先月18日に開いた林地再生対策協議会で、被災森林所有者に実施した森林災害復旧事業意向調査の結果を示した。回答した対象面積のうち53・3%に当たる783・74㌶で同事業による伐採、再造林を希望。市は今後、適否判断や最終的な事業計画量の算定に向けた確認作業を進め、森林所有者には来年3月末までに事業の適否などを示した通知文書を送付する。
 確認作業では面的な整備の可否や境界問題点、木材搬出、作業道開設の必要性などを見極めるが、「希望する」と回答しても、事業を実施できない被災森林が出ることも想定される。「希望しない」と回答した土地が隣接する場合、搬出路をどう確保するかといった課題も浮かび上がる。
 事業では、所有者には森林保険の保険料や除草作業以降の管理費用などが発生するが、伐採や植栽に対する負担はない。こうした財政支援の半面、現段階で事業期間は令和10年度までとなっており、作業に従事するマンパワー確保が課題。また、多方面での被災木活用を見据え、木材集積ポイントの確保・充実も求められる。
 市農林水産部の山岸健悦郎部長は「正直に言えば、令和10年度までの全体の事業完了は厳しいと感じている。これまでも国には要望しているが、引き続き柔軟な対応を求めたい」としている。