本年度末で42万点に 被災文化財の修復事業 東日本大震災14年9カ月
令和7年12月11日付 1面
東日本大震災で被災後、陸前高田市内で回収された文化財資料の安定化処理作業が、本年度末で全体の91・3%に当たる約42万点に達する見通しとなった。塩害を被った文化財をよみがえらせる取り組みは世界的に例がなく、市教委が専門家の協力のもと修復工程を決め、地道に作業を続けてきた。発災から11日で14年9カ月。残る約4万点には処理技術が未確立の資料も含まれ、「文化財の残らない復興は本当の復興ではない」として、地元内外の博物館関係者がつないできた取り組みを可能な限り続けていくためにも、市教委は国に対し、来年度から最長5年間の事業継続支援を要望している。(高橋 信)
安定化処理の拠点となっている矢作町生出地区の生出収蔵施設(旧生出小)。スタッフ8人が担当工程に分かれて作業に励んでいる。
現在は紙製資料の処理がメイン。脱脂、除菌、脱塩、洗浄など約20の工程があり、資料の処理完了は通常1点当たり3、4日かかるという。
泥まみれのまま冷凍された紙資料は解凍・乾燥後、竹串などでこびり付いた泥を丁寧に落とすなど、被災度に応じた慎重な作業が求められる。並行して収蔵庫に置く処理済みの膨大な資料の整理も行っている。
同施設で11年働く佐藤通修さん(66)は「被災資料はまだたくさんある。やるべき仕事をしっかりやりたい」と語る。
同市では市立博物館、海と貝のミュージアム、市立図書館、埋蔵文化財保管庫に収蔵されていた計約56万点が被災。レスキューは県・市町村教委、博物館ネットワーク、自衛隊などの力を借りて始まり、がれきの中から約46万点を救出した。
旧生出小に搬入した資料の安定化処理は平成24年度、文化庁の被災ミュージアム再興事業を活用して始まった。津波被害を受けた文化財の修復は過去に事例がなく、市単独で手がけるのは困難だった中、全国の専門機関協力のもと進めてきた。
全壊した市立博物館は高田町の中心市街地に再建され、令和4年11月に開館。修復された7000点を超える資料が展示され、館内では安定化処理作業の様子を一部公開している。今年11月15日からは、修復を経て15年余ぶりに同市に返還された美術作品の特別公開「甦った絵画たち─陸前高田へ帰郷─」が始まり、今月14日(日)まで開かれている。
9合目を過ぎた被災資料の修復。しかし、未処理の資料の中には、皮革資料など修復技術が未確立なものもあり、完遂できるか先行きは不透明だ。市教委は処理にこれまで以上の時間を要すると試算し、8~12年度の最長5年間、被災ミュージアム再興事業として続けられるよう文化庁に要望している。
生出収蔵施設には処理前の資料を保存する冷凍庫、処理済みの資料を管理する収蔵庫などがあり、市民ら向けに修復体験を行う施設としても活用している。市教委は安定化処理を行うとともに、見学の受け入れ、処理技術を伝える場としての利活用を想定している。
山田市雄教育長は「全国の専門機関と連携していきながら、できる限り市の貴重な文化財を残していかなければならないと考えている。修復作業を続けることができるよう、文化庁に事業の継続を要望していく」と見据える。






